2008-01-01から1年間の記事一覧

ラスムスくんの幸せをさがして/オル・ヘルボム、ロルフ・ハスバーグ

2008/9/15 スウェーデンの児童文学を映画化した作品。内容は孤児院の少年が風来坊の男と行動を共にする中で、お金持ちの生活よりも貧乏でも精神的に豊かな生活を選ぶ、というもの。 この作品は1981年に公開されたものだが、すでに豊かな福祉社会であったスウ…

謎とき 村上春樹/石原千秋

2008/8/30-9/14 「「僕」がこの「手記」で一番隠したかったのはこのことだった。「僕」と鼠の友情物語は、実は「僕」と「小指のない女の子」の物語を内包しながら、「僕」と鼠と「小指のない女の子」との三人の物語に転換していたのだ。そして、「僕」が勝っ…

幻想の肖像/澁澤龍彦

2008/8/2-9/10 一枚の肖像画を題材にした、短編エッセイ集。 絵の作者のことや代表的な解釈のほか、作者による独自の印象論、歴史や精神分析の知識を援用した見方なども提示している。

太平洋の防波堤・愛人/デュラス 悲しみよこんにちは/サガン

2008/8/12-9/4 『太平洋の防波堤』 「「起きたって、なにができるのかわからないんだよ。あたしはもう、誰のためになにをしてあげることもできないんだよ」 彼女は話しながら両手をあげ、無力感といらだたしさをこめた動作でそれをまたベッドの上におろした…

太陽/アレクサンドル・ソクーロフ

08/9/1-9/3 太平洋戦争末期と戦後を舞台背景に、昭和天皇と彼を取り巻く人々を描く。 昭和天皇は神経質そうで、やや変わりもののように描かれている。また、発言の内容は抽象的で意味がとれないことも多い。ただし、それが昭和天皇の性格から来るものでなく…

あの夏、いちばん静かな海。/北野武

2008/8/27 北野監督らしい郊外の平面的な、奇妙に明るい風景の中で物語は進行する。 そして、これも監督らしく、人の心にずぶずぶとくる痛みを感じさせる作品。 この映画はcinefil imagicaで見たが、その紹介文で「登場人物のすべてが生々しい原色日本人像ば…

限りなき夏/クリストファー・プリースト

2008/8/9-8/26 朝日新聞の書評が印象に残り、夏休みを利用して読んでみた。 SFの短編・中編を集めたものなので、舞台は未来となっているが、登場する人々の感覚はどちらかといえば過去に属している感がある。 たとえばその感覚は、次のような表現の中に見…

亀も空を飛ぶ/バフマン・ゴバディ

2008/8/25 イラク戦争下の、イラク北部のクルド人社会の様子を、子供達のリーダー格であるサテライトを中心に描く。 印象的なのは、子供たちが非常にシビアで、冷めた視点を持っていること。戦争状態が日常であり、難民や地雷による被害をリアルに経験してい…

東京オリンピック/市川崑

2008/8/20-8/22 東京オリンピックの記録映画であるが、当時の世相を記録した、極めて良質なドキュメンタリーでもあると感じた。 たとえば開会式の場面では、多くの国の選手団が感動的なアナウンスとともに入場してくると共に、天皇の姿が映し出されるが、そ…

ベネディクト・アンダーソン グローバリゼーションを語る/梅森直之

2008/8/13-8/17 二〇〇五年にアンダーソンが早稲田大学で講義した内容と、著者がアンダーソンの思想を解説した内容が収められている。 講義の部分では、アンダーソンは『想像の共同体』の限界と、現在取り組んでいる思想について語っている。『想像の共同体…

ケータイ小説的/速水健朗

2008/7/27-8/9 ケータイ小説におけるリアル 「ケータイ小説とは、「投稿文化」「UGC」というキーワードを背景にしたコミュニケーションから生まれた作品群である。故に、「ケータイ小説におけるリアル」を、「実際にあった話」かどうかといったレベルで判…

<奇跡の映像 よみがえる 100年前の世界> (BS世界のドキュメンタリー)

2008/7/26-8/8 二〇世紀初頭の資産家、アルベール・カーンのコレクションを基に、当時の人々の生活をひも解いていく、全九回のシリーズ。 カーンは平和の実現のためには、ほかの国の人々の生活を理解することが必要だと考え、『地球映像資料館』というコレク…

オン・ザ・ロード/ケルアック

2008/6/22-8/3 40年代後半のアメリカを舞台とした、「ビート・ジェネレーション」達の様相を描いた小説。「ビート」とは、音楽用語であると共に、「くたびれた」という意味もあり、著者がその言葉を使うときには、どこか明るい諦念のようなものがある。 彼ら…

世界悪女物語/澁澤龍彦

2008/6/17-7/30 世界の名だたる悪女を題材にしたエッセイ集であるが、興味深いのはその人選であろう。 「ルクレチア・ボルジア(十五世紀イタリア)」「エルゼベエト・バートリ(十七世紀ハンガリア)」「ブランヴィリエ侯爵夫人(十七世紀フランス)」「エ…

今日からデジカメ写真がうまくなる/九門易

2008/7/19-7/24 旅行に行ったときにきれいな写真をとるコツが知りたくて読んでみたが、技術的なこと以外にも、広告写真が作られるカラクリや、カメラマンと被写体・鑑賞者の関係など、写真芸術論的な内容も面白かった。 たとえば、ポートレートを撮ることに…

不可能性の時代/大澤真幸

2008/7/5-7/19 〈不可能性〉とは何か 「〈不可能性〉とは、〈他者〉のことではないか。人は、〈他者〉を求めている。と同時に、〈他者〉と関係することができす、〈他者〉を恐れてもいる。求められると同時に、忌避もされているこの〈他者〉こそ、〈不可能性…

あらくれ/成瀬巳喜男

2008/7/16-18 徳田秋声の原作を映画化。大正初期を舞台に、高峰秀子演じる女性が、さまざまな男と出会い別れるという、ありふれていると言えばありふれたモチーフの作品。にもかかわらず、やっぱり当時の名作はいいな、と感じる作品だった。 アマゾンのある…

クレールの膝/エリック・ロメール

2008/7/13-14 結婚を直前に控えた男が、二人の少女と「実験としての恋愛」をする、という話。 男はとくに、二人目の少女クレールの膝に非常な魅力を覚えるが、雨やどりの小屋で彼女の膝をなでまわしたあと、少女たちへの恋愛感情はなくなり、現実の結婚へと…

テヅカ・イズ・デッド/伊藤剛

2008/6/28-7/11 「キャラ」と「キャラクター」 筆者はこの二つを次のように定義している。 キャラ:「多くの場合、比較的に簡単な線画を基本とした図像で描かれ、固有名で名指しされることによって(あるいは、それを期待させることによって)、「人格・のよ…

秒速5センチメートル/新海誠

2008/6/29 三篇の短編映画から構成されているが、第一話・第二話と第三話では受ける印象が大きく違う。 一話・二話では、物語がふたりの関係に限りなく集約され、外部の社会はほぼ無視されている。地方の美しい風景を背景とした綺麗な物語は、過去の記憶をフ…

書きあぐねている人のための小説入門/保坂和志

2008/6/22-6/28 著者の小説に対する考えかた、特に著者の小説を読むにあたってポイントとなるであろうことが書いてある。大塚英志氏の『物語の体操』も同時に読んでいたが、二人の創作に関する考え方の違いが比較でき、興味深かった。 「(哲学、科学、小説…

愛の昼下がり/エリック・ロメール

2008/6/27 主人公フレデリックは、美人の妻と子供に恵まれながら、結婚以来妻以外のあらゆる女性が魅力的に見えてしまう。そんな中、旧友のクロエと出会い恋仲になる。しかし、一線を超える手前で彼は思いとどまり、妻の元へと帰ってゆく。 クロエとの会話の…

時の廃墟/沢木耕太郎

2008/5/29-6/17 一九七〇年台〜八〇年代の日本において、時代を象徴する人々、あるいは時代の影の側にいながらも、その時代の特性を体現している人々を描く。 その取材の報告も興味深かったのだが、感銘深かったのはあとがきの次の文章である。あとがきの中…

世界は「使われなかった人生」であふれてる/沢木耕太郎

2008/6/1-6/16 著者が「一映画ファン」として書いたエッセイを収めているが、紀行文家としての著者の思いは、やはりあとがきの次の文章に見られる。 旅をすると、思いがけない経験や情景に触れることで、その国の何かがわかったような気になってしまうが、彼…

入門経済思想史 世俗の思想家たち/ハイルブローナー

2008/5/21-6/14 アダム・スミスからシュンペーターまでの経済学者の人と思想を紹介している。 それぞれの章を読んで思うことは、経済学者の思想も、その時代の限界の中にあったということ、そしてその中で彼らはそれぞれの時代の問題に解答を与えようとして…

ライトノベル「超」入門/新城カズマ

2008/6/10-6/13 数年前のライトノベルのを巡る状況や、その歴史を紹介した内容になっているが、次の“キャラクター”に関する説明が特に面白かった。 ゲーム、あるいはゲーム的な発想で、物語のエンディングが複数になり、登場人物は葛藤も決断もしていない場…

フェリーニのローマ/フェリーニ

2008/6/8 フェリーニ自身がローマに出てきた一九四〇年代と、映画が撮られた一九七〇年当時のローマの様子を描き、いわば現代ローマの今昔物語となっている。市井の人々の生活を撮っている部分もあるが、作品の多くの部分は郊外、寄席、地下鉄の工事現場、娼…

猿の惑星/フランクリン・J・シャフナー

2008/6/3 未知の惑星に到着したと考えていたその星は、実は人類衰退後の地球だったというあまりにも有名な話。 実際に見てみると、シナリオは分かっているもののさまざま場面に面白い描写がある。たとえば「文明的な」人間と「非文明的な」猿の立場を入れ替…

フローラ逍遥/澁澤龍彦

2008/2/29-3/18 二十五の花々について、著者の眼や記憶を通したエッセイがつづられている。 生前公刊された最後の作品であり、著者も自身の死を意識していたのかもしれない。そのせいもあってか、全編がどこか達観したような、乾いた筆致となっている。 妻で…

カーニヴァル化する社会/鈴木謙介

2008/5/20-5/31 この本のテーマである「カーニヴァル化」について、著者は次のように述べている。 「蓄積や一貫性を維持することが困難な後期近代においては、共同体への感情は、アドホックな、個人的な選択の帰結から生じるもの以外ではあり得なくなる。そ…