2008-01-01から1年間の記事一覧

大菩薩峠/岡本喜八

2008/5/28 原作の第一部を映画化した作品。 最近『思想地図』という雑誌で中国文学に関する記事を読んだが、そのなかで中国文学には自然主義的リアリズムが発達せず、豊かな物語の伝統が現代まで続いていた、という記事があった。 時代劇映画を見ると、日本…

華やかな食物誌/澁澤龍彦

2008/4/14-5/27 食にかかわる古今東西の題材を扱ったエッセイのほか、西洋美術や日本の中世美術、現代芸術に関する評論が収められている。 印象に残ったのは『ヴィーナス、処女にして娼婦』という、いかにもこの本の著者らしい短編。 処女と娼婦、この相矛盾…

現代に生きるケインズ/伊藤光晴

2008/4/29-5/25 著者はまず、ケインズは自身の思想を「道徳科学」として扱っていることを確認する。ケインズにとって、経済的効率も手段であって目的ではない。彼の中には、経済効率を損なっても望ましい制度を維持したほうがよいという考えもあったのである…

鏡子の家/三島由紀夫

2008/4/20-5/17 昭和三〇年前後の東京を舞台に、資産家の令嬢である鏡子と彼女を取り巻く人物たちの交流を描く。昭和三〇年前後という時代はまだ貧しさが残る時代であったはずだか、その中で大衆から遊離し、奇妙な社交を繰り広げる彼らの生態は面白い。また…

推手/アン・リー

2008/5/13 ニューヨークの息子夫婦の家に越してきた老人が、家を出て自分の居場所を見つけるまでを描く。 『恋人たちの食卓』と同様、家族と世代間の葛藤をテーマに描いている。この映画ではそれに加え、アメリカに暮らす中国人社会の様子も垣間見ることがで…

海辺の社会史/鶴見良行

2008/4/29-5/12 ・移動分散型社会 「定着農耕社会で権力の基盤は土地だった。移動分散型社会では、権力の基盤は人間である。どれだけ多くの人間を自分の配下に惹きつけておけるか。それがこの社会の権力の秘密である。定着農耕社会では農民は放っておいても…

[映画]恋人たちの食卓/アン・リー

2008/4/26-4/27 台北に暮らす老料理人と彼の三人の娘、それぞれの恋愛と結婚を描く。 三人の娘は高校教師、航空会社のOL、アルバイターという職業を持っており、彼女達の視線を通して九〇年代の台北の様子が観察できる。あか抜けない部分もあれば都会風に…

日本の歴史をよみなおす/網野善彦

2008/3/9-4/20 ・市場は、そこにはいるとモノも人も世俗の縁から切れてしまう場所、つまり「無縁」の場所となる。別の言い方をすれば、いったん神の世界のものになる。日本の社会では市場は河原、川の中州、浜、坂など境界に立てられる場合が多く、それらは…

イラク 開戦から5年(BS世界のドキュメンタリー)

2008/4/13 「イラク帰還兵 苦悩の4年間」 「バグダッド 青春グラフィティー」 前者は戦争に行った側のアメリカの若者を描く。これらの若者達は専門職としての軍人ではなく、学生や会社員として生活しながら訓練を受け、志願してイラクに赴いた者達である。 …

批評の精神分析/東浩紀

2008/3/31-4/12 著者のここ数年の対談を集めたものだが、近年の著書に対する識者の反応と、それに対するコメントがおもしろい。 『動物化するポストモダン』については、現代の人間は動物的・人間的な二つの面で生活していることが改めて確認され、社会全体…

巴里の女性/チャップリン

2008/4/2 フランスの地方都市に住む結婚を約束したカップルが、男性の父親に結婚を反対され、パリに駆け落ちする決意をする。しかし当日になり、男性の父親が死亡、女性は一人でパリに出かけることとなる。その後、女性は社交界で成功し、ある日画家としてパ…

マレー蘭印紀行/金子光晴

2008/3/19-3/30 著者が旅した昭和初期の東南アジア、その自然や人々、農園、進出した日本人の様子が描かれる。 この本を読んでいる時間、自分の中にある記憶が呼び起こされるのを感じた。地方に住んでいた学生時代、毎年大晦日の深夜に家を出て、車で一時間…

キャッチャー・イン・ザ・ライ/サリンジャー

2008/3/19-3/30 高校を中退した主人公が、ニューヨークの実家に戻るまでの数日間を、彼の行動を追いながら描く。 主人公が、自分がそこをあとにすることを実感するためにフットボールの試合を見下ろす場面や、安物のスーツケースをもつシスターを見て落ち込…

プロフェッショナルの条件/ドラッカー

2007/11/17-12/8 ドラッカーの「自己実現」をテーマにした論文集。どのテーマも興味深く、繰り返し読むに値する本だと思う。 今回、特に次の三つの部分が印象に残った。 新しい仕事が要求するものを考える 「私は新しい仕事を始めるたびに、「新しい仕事で成…

ある結婚の風景/ベルイマン

2008/3/12・13・16 傍目からは理想的関係と見え、自分たちもそのように思っている夫婦が、浮気の発覚、別居、離婚、そして新しい関係を築くまでの様子を描く。 BGMは一切流さないながらも、演出や俳優達の演技により、起伏ある印象を受ける。 衝突することはあ…

ミッドナイト・エクスプレス/沢木耕太郎

2008/2/15-3/16 わたしも、この本の旅ほど刺激的なものではないが、沢木氏と似たような旅をしたことがある。もちろん期間はだいぶ短いものであるが。 そのような旅をやめてから、すでに四年以上たっている。そして、当時の旅や生活は、自分の中ではすでに一…

マラッカ物語/鶴見良行

2008/2/11-3/15 本書での著者の主張は、歴史学の大国主義史観を改めるべき、というところにある。 著者はその主張を、海賊が国家公認の行為であったこと、西洋が香辛料に注目する前から東南アジアの交易社会は存在したこと、アヘンは中国より先にまず東南ア…

ゲイツとバフェット 後輩と語る(BS世界のドキュメンタリー)

2008/3/9視聴 世界の長者番付のトップを争う二人が、ネブラスカ大学の学生と対談した模様を放送した番組。 学生達の質問への回答として、二人の以下の考えが印象に残った。 「性格や適性にあった仕事をしていくのが、結局は一番効率的」(バフェット) 「外…

オリバー!/キャロル・リード

2008/3/3・4・9 ディケンズの名作をミュージカル映画化。 美術は、舞台となる十九世紀初頭の空気感をうまく表現している、とのこと。 悲劇もあるのだが、俳優達の演技や歌が、どことなくほんわかした雰囲気をかもし出してくれる。いわゆる、良質のミュージカ…

プラトーン/オリヴァー・ストーン

2008/3/2 裕福な家庭に育った青年が志願してベトナム戦争に赴き、軍人として、人間として成長するまでの物語。 プロットはシンプルなビルドゥング・ロマンスの形態をとっており、米兵のベトナム人に対する暴力、軍隊の士気の低下、制裁としての同士討ちなど…

羊をめぐる冒険/村上春樹

2008/2/4-3/1 柄谷行人は『村上春樹の風景』の中で、この作品について論じている。その主張によれば、ここで追い求められている「羊」とは、彼が論の中で展開する「アジア」「民権」に属する「アジア主義」の領域、「暴力」の領域であるとする。「アジア主義…

僕の叔父さん 網野善彦/中沢新一

2008/1/21-2/27 著者と網野氏の交流をつづるとともに、全体が網野史学のエッセンスを紹介した内容ともなっている。 『無縁・公界・楽』の主張 著者によれば、この本を出した当時の網野氏の主張は以下のものであった。 人間の本質は自由意志であり、それが言…

細雪/市川崑

2008/2/23 この映画には、独特の浮遊感が漂っていると感じた。舞台は現実の大阪や京都であるのに、どこか別世界の出来事のような印象を受けるのだ。そう感じさせる原因について、次のように考えてみた。 映画の舞台は昭和一三年の大阪、公開は四五年後、昭和…

眺めのいい部屋/ジェームズ・アイヴォリー

2007/2/18-2/20 二〇世紀初頭の、イギリスの良家の娘と、彼女を取り巻く恋を描く。 主人公のルーシーは、旅先のフィレンツェで青年ジョージに出会い、恋仲になる。一方、故郷ではブルジョア階級のセシルと婚約する。周囲にはうそで取り繕い、自分の気持ちを…

映画女優/市川崑

2008/2/15-2/17 女優・田中絹代の半生を、戦前から戦後の日本映画の歴史と供に描く。 田中絹代が映画業界に入ってから、主役級の女優として活躍する歩みとともに、私生活における男性との関係にも言及している。後半は溝内健二との関係がプロットの中心とな…

現代中国文化探検/藤井省三

2008/2/2-2/11 近代・現代の中国の都市文化を、それらが表象された都市文化とともに解き明かしてゆく。 北京では、「単位」で構成される社会と、現代におけるその危機を述べる。 上海では、戦前に全盛期を誇ったオールド上海の様子とそれを表象するメディア…

現代思想入門/仲正昌樹 他

2007/12/30-2008/2/10 「フランクフルト学派」「ポスト構造主義」「現代リベラリズム」「カルチュラル・スタディーズ/ポストコロニアリズム」を主な思想家の学説とともに概説。 今後も思想関係の本を読む際に、辞書的に活用したい。

集中講義!日本の現代思想/仲正昌樹

2008/1/28-2/3 日本における現代思想の展開を戦後のマルクス主義の展開から、ポストモダン思想の受容、その後の現在の状況まで時系列的に追っていく。それぞれの時代の思想については、その都度該当箇所を参考にしたいが、最後に「現代思想」に対する著者の…

八重山諸島

数年前、はじめて島を訪れた時のことを思い返す。 旅に希望が持てなくなったあとの、しばらくぶりの旅だったと思う。なぜ旅に出ようと思ったのかは分からない。ただ、今ある日常をずらしてくれるのもが欲しかった。 島に渡ると、宿のマイクロバスが出迎えて…

方法としての東北/赤坂憲雄

2008/1/25-2/1 著者のひとつの立場として、明治以降の近代化の過程で東北に押し付けられた、「日本のふるさと」「米どころ」といったイメージを解体することがある。その反証として、東北は近代初期までは米どころではなく、主に稗やソバをを作っていたとい…