「旅と作家」

『いつも香港を見つめて』 四方田犬彦 也斯

2010/1/20読了 (揚州チャーハンの専売特許問題に関連し)揚州チャーハンが最も多く食べられているこの香港では、この話は冗談だと思われています。香港は無意識のうちに多くの中国の伝統的な料理法を保存しているのかもしれませんが、同時にまた伝統という…

オン・ザ・ロード/ケルアック

2008/6/22-8/3 40年代後半のアメリカを舞台とした、「ビート・ジェネレーション」達の様相を描いた小説。「ビート」とは、音楽用語であると共に、「くたびれた」という意味もあり、著者がその言葉を使うときには、どこか明るい諦念のようなものがある。 彼ら…

華やかな食物誌/澁澤龍彦

2008/4/14-5/27 食にかかわる古今東西の題材を扱ったエッセイのほか、西洋美術や日本の中世美術、現代芸術に関する評論が収められている。 印象に残ったのは『ヴィーナス、処女にして娼婦』という、いかにもこの本の著者らしい短編。 処女と娼婦、この相矛盾…

マレー蘭印紀行/金子光晴

2008/3/19-3/30 著者が旅した昭和初期の東南アジア、その自然や人々、農園、進出した日本人の様子が描かれる。 この本を読んでいる時間、自分の中にある記憶が呼び起こされるのを感じた。地方に住んでいた学生時代、毎年大晦日の深夜に家を出て、車で一時間…

ミッドナイト・エクスプレス/沢木耕太郎

2008/2/15-3/16 わたしも、この本の旅ほど刺激的なものではないが、沢木氏と似たような旅をしたことがある。もちろん期間はだいぶ短いものであるが。 そのような旅をやめてから、すでに四年以上たっている。そして、当時の旅や生活は、自分の中ではすでに一…

東南アジアを知る/鶴見良行

2008/1/25-1/27 著者の東南アジア研究の方法論をまとめている。著者独特の方法として「一を聞いて十を知る」「モノから考える」「海の側からみる」といったものがある。印象に残った箇所の一つとして、「辺境」について述べた次の部分がある。 「東南アジア…

アジアの不思議な町/巌谷國士

2007/1/7-1/18(〜p142,p292〜) 文学者の眼によってアジアがどう表象されるのか、という興味から読んでみた。 北京にユートピア都市のおもかげを見るなど、シュルレアリストならではの独創的な視点が随所に見られる。ただ、エッセイが書かれた時代のせいもあ…

オン・ザ・ボーダー/沢木耕太郎

2007/12/29-2008/1/4 著者の二〇代の頃の旅から、最近の旅までの記録をまとめたエッセイ集。 最近の旅では、ブラジルやベトナムの記録がある。若い頃の文章から伝わるみずみずしさや感動はないが、旅の経験を重ねたなりに楽しもうとする著者の姿勢が感じられ…

日本の不思議な宿/巌谷國士

2007/11/27-12/28 筆者が旅先で出会った「不思議な宿」について記したエッセイ集。ちなみに、筆者にとって不思議な宿とは、「一見ふつうであり、正統的・伝統的なものであっても、こちらの感覚が微妙に反応して、いわくいいがたい驚きをよびさまされる」(312…

プロヴァンス(アラン・ド・ボトン)

「わたし自身の眼も、周りを見るとき、ヴァン・ゴッホのキャンヴァスを支配している色彩を見るのに、しだいに適応してくる。どこを見ても、原色のコントラストが見える。家の横手には紫色のラヴェンダー畑があって、隣り合って黄色の小麦畑がある。建物の屋…

湯浅(澁澤龍彦)

(施無畏寺にて)「この断崖絶壁となった山頂から、湯浅湾の海を一望のもとに見渡すことができるのだった。 私は巨岩の上に腰をおろして、汗ばんだ肌を風になぶらせながら、この古い日本の風景のアルケタイプ(原型)とでもいえそうな、眼下にひろがる海を眺…

夢のある部屋/澁澤龍彦

2007/4/14-5/11 六十〜七十年代に書かれた澁澤龍彦のエッセイ集。オブジェや現代文化、エロティシズムに加え、彼が居を構えていた鎌倉についての記述もある。 「徹夜の仕事を終えて、朝風呂に入っていると、澄み切った声で最初のヒグラシが鳴き出す。それは…

澁澤龍彦との日々/澁澤龍子

2006/4/28-5/6 「澁澤との日々を改めて考えてみると、世間一般でいう、いわゆる家庭生活というものがあったのか疑問に思います。地に足つけて、しっかり日常を生きるというよりも、今でもそうなのですが、幻想のなかに生きているような、夢のなかにいるよう…

街道をゆく「沖縄・先島への道」/司馬遼太郎

2007/1/26読了 「古代の漢民族は、自分たちと他者を区別するのに敏感だった。かれらは、ある種の風体と、肉体的特徴と、そして非漢民族的な生産文化を持った連中を指して、倭とか倭人とかと称した。この呼称のほうがずっと気楽で、これを称するだけで、精神…

街道をゆく「大徳寺散歩」/司馬遼太郎

2007/1/24読了 「(清潔と美の)二つの意味において大徳寺境内は伊勢神宮とならぶきれいさといっていい。もっとも、伊勢神宮の場合、清潔を主題としてその空間ができあがっているのに対し、大徳寺は、本来ごたごたした仏教寺院を、掃ききよめ、洗いきよめる…

イタリア(澁澤龍彦)

「私は、道一つ隔てたホテルの右隣りの公園ヴィラ・ジュリアにきて、初めて私の夢想のパレルモを見出したと思った。あとで気がついたのだが、ゲーテがパレルモ滞在中、毎日のように通ってきては、「物静かな楽しい時間」を過ごし、彼の心に以前から漠然と思…

イタリア(塩野七海)

「何回もいうようだが、ローマは、いわゆるインテリには向いていない。自らの本質を充分にふまえて、そのうえで自分はいったい何が欲しいのかということを知っている人の情熱には応じてくれるが、時代の先端を行くことや、前衛前衛とばかりに気を使っている…

ホメロスを楽しむために/阿刀田高

2006/12/23読了 「人間達は悩み、問いかけ、祈り、そして努力をする。計り知れない神の意志に翻弄されながら、どのようにして自分の、人間としての倫理を確立するか。避けることのできない死をどう迎えるか。二つの叙事詩には、神々の気紛れにもまれながら葛…

滞欧日記/澁澤龍彦

2006/12/23読了 「スペインへ来て気がついたこと。方輪者、めくら、足なえ、いざり等多し。道ばたに立っている。新聞売り。 乞食。押売り。客引き」(81) 「たしかにヴェニスは、安ピカ物の古びた、大時代的な感じの町である。骨董屋多し。何軒か、ひやかして…