2007-01-01から1年間の記事一覧

青い鳥/メーテルリンク

2007/12/9-12/29 クリスマスイブの晩に、青い鳥を求めてさまざまな世界を彷徨う兄妹の物語。 彼らが訪れる世界の中でも、「未来の王国」の描写がとくに美しかった。 「第一の子供:「時」のおじいさん、ぼくをあの子といっしょに行かせて下さい。 第二の子供…

歴史と反復/柄谷行人

2007/11/24-12/28 近代日本の言説空間 前半では近現代の歴史に見られる「反復」を、コンドラチェフの波を根拠としながら論じる。 たとえば天皇をめぐる言説空間については、大正時代と七〇年代に共通性を見出している。大正時代は「土人の酋長」論(柳田國男…

日本の不思議な宿/巌谷國士

2007/11/27-12/28 筆者が旅先で出会った「不思議な宿」について記したエッセイ集。ちなみに、筆者にとって不思議な宿とは、「一見ふつうであり、正統的・伝統的なものであっても、こちらの感覚が微妙に反応して、いわくいいがたい驚きをよびさまされる」(312…

嗤う日本の「ナショナリズム」/北田暁大

2007/12/5-12/22 1960年代以降の日本社会を、「反省」の系譜に沿って、現代の「ナショナリズム」の源泉を分析している。 筆者は、現代を「ロマン主義的シニシスト」の時代であるとしている。その行為の動機は「不確実な他者への接続可能性」であるとし、…

地獄の黙示録/コッポラ

2007/12/15-12/17 ひとりの軍人の眼を通し、ベトナム戦争時のベトナムとアメリカ軍を描く。 上陸作戦を演出するテレビ局や、プレイメイトに興奮する観光客気分の米兵など、当時のアメリカの堕落を描く一方で、戦争やベトナムという土地の持つ悪魔的な面も見…

『ムーラン・ド・ラ・ガレット』

ルノワールの代表作に『ムーラン・ド・ラ・ガレット』がある。中学校の美術の教科書で見て以来、この絵は私のもっとも好きな絵であり続けた。そして、この絵に対する関心がなくなったとき、それは外国に対する憧れがなくなった時期でもあった。 思い出せば、…

1973年のピンボール/村上春樹

2007/11/25-12/4 「そしてガラス窓に映った僕の顔をじっと眺めてみた。熱のために目が幾らかくぼんでいる。まあいい。午後五時半の髭が顔をうす暗くしている。これもまあ良かろう。でもそれはまったく僕の顔には見えなかった。通勤電車の向いの席にたまたま…

トスカの接吻/ダニエル・シュミット

2007/12/2-12/3 かつてのオペラ歌手たちが暮らす養老院を描いたドキュメンタリー。彼らの多くは老いはて、一見普通の老人と変わらない。しかしアリアを歌え出せば、声の張りは健在であり、ひとりの役者に変わる。監督の関心は、歌手たちの人生の虚構性にある…

ロートレック展/愛知県美術館

2007/12/1 ロートレックといえばポスター、そして娼婦や踊り子を描いたスケッチ風の絵である。しかし今回の展覧会では、それだけに留まらない、彼の多様な作品が展示してあった。絵葉書を購入した4点について書き留めておく。 ・『小説<悦楽の女王>』・『…

北漂一族〜北京・さまよえる若者たち〜(ハイビジョン特集)

2007/12/1 今の中国では、地方から成功や華やかな生活を求め、北京に出てくる若者が多い。彼らは自らのことを「北漂一族」と呼ぶ。 彼らが北京に出てきた理由は「やりたい仕事をしたい」「華やかな生活をしたい」「青春を充実させたい」という理由が多い。ま…

ヘカテ/ダニエル・シュミット

2007/11/27 北アフリカに赴任したフランスの外交官の青年は、その地である人妻に恋をする。彼は恋に夢中になるあまり、生活を破壊し、ついには外交官の職を追われる。数年後、彼は出世し、シベリアの地で外交官として活躍しているが、そこに再び彼女が現れ、…

城 夢想と現実のモニュメント/澁澤龍彦

2007/10/29-11/26 「閉じこもることによって力を凝集する、――これがおそらく、城というものの本質的な機能ではないかと私には思われる。城の内部に我が身を限定するのは、一見したところ、その欲望の範囲をせまく限ることのようにも思われるだろう。しかしな…

トリマルキオの饗宴/青柳正規

2007/10/28-11/23 ローマ時代の小説『サテュリコン』中の有名な場面である『トリマルキオの饗宴』の模様を、当時の資料を駆使し詳しく解説した一冊。当時の饗宴の役割や、出された食事、またトリマルキオが属した解放奴隷という身分など、社会史的な記述が多…

好き好き大好き超愛してる。/舞城王太郎

2007/11/10-11/17 「「私も治のことが好きだった」と柿緒は言って、僕も、そして柿緒も、それが過去形で言われたことにすぐ気付く。その気付きは稲光みたいに僕と柿緒のその瞬間を照らす。 僕は「どうして過去形なんだよ」と軽くツッコみたかった。でもここ…

ラ・パロマ/ダニエル・シュミット

2007/11/16 娼婦ラ・パロマと、彼女に恋をする青年貴族イジドール、彼の友人ラウルの人間模様を描いた物語。 三人の恋が話の中心となるのだが、その恋は純粋とも、退廃的とも、様式的とも見え、描き方は一言では表現できない。あるいは通常の映画の恋の単純…

今宵かぎりは…/ダニエル・シュミット

2007/11/14 チェコのある貴族の屋敷では、年に一回主人と召使の役割が入れ替わる晩がある。この映画ではその晩餐の様子を描いている。召使たちが見ている前で、貴族たちは次々と出し物を披露していく。 出し物のBGMとして『白鳥』や『タイスの瞑想曲』が…

マルクスる?/木暮太一

2007/11/2-11/11 マルクス経済学の概念を平易に解説した本。『価値』『資本』等の概念や、恐慌のメカニズムなど、基本となる枠組みの理解に役立った。 『価値』 『価値』はマルクス経済学の中でも特に基礎となる概念であり、この本の中でも分かりやすく紹介…

天使の王国/浅羽通明

2007/11/3-11/10 天使としてのおたく 「学校社会による汎正解化によって、「おたく」は世界の傍観者と化した。彼の眼からはすべてが俯瞰されるが、彼自身はすでに世界の中にはいない。そう『ベルリン・天使の詩』の天使たちのように。「おたく」は「おたく」…

ウェブ社会の思想/鈴木謙介

2007/10/21-10/30 手に届きそうな未来 「『シガテラ』が描こうとしている未来とは、カーニヴァルによってテンションを高めて、未来へ向けて驀進することでも、そうしたカーニヴァルによって未来を選ぶことを諦めてしまうことでもなく、「手の届きそうな未来…

カント『純粋理性批判』入門/黒崎政男

2007/10/7-10/30 時間とは?空間とは? 「分かりやすく言えば、時間・空間は、ものそのものが成立するための条件ではなくて、ものについての人間の認識が成立するための条件である。つまり、時間・空間はものの側にあるのではなくて、認識する側にある存在で…

私のように美しい娘/トリュフォー

2007/10/27-10/29 男をだまし続ける一人の悪女を描いた物語。若い社会学者の青年が刑務所で彼女を取材する、という形で彼女の遍歴が語られていく。取材を重ねるうち、青年が彼女に魅かれていき、彼女の無実を証明するまでに至るのだが、彼女はその青年までも…

チェーホフを楽しむために/阿刀田高

2007/9/25-10/21 チェーホフの恋愛観 「しかし、まあ、私としては、わからないこともない。この作品の主人公オーグネフは、女性には憧れていたがヴェーラを(本心において)好きでなかったのかもしれない。手近にあるものに憧れてはみたものの、いざとなると…

雪国/豊田四郎

2007/10/15-10/16 川端康成の同名小説の映画化。何年も前に原作を読んだが、印象的ないくつかの場面以外はすっかり忘れていた。 島村、駒子、葉子、行男の関係も、作品を見て初めて分かった部分が多い。 舞台となる北国の様子は、私の幼少時代の近い過去に、…

坊やの人形/侯孝賢他

2007/10/14-10/15 六〇年代の台湾を舞台にした三本のオムニバス映画。 第一話は妻子を養うためにサンドイッチマンになる男の話。第二話は圧力釜のセールスマン二人に起こる悲劇。第三話はアメリカ兵に撥ねられたことで大金を手にする家族の話。 いずれの物語…

風の歌を聴け/村上春樹

2007/10/8-10/14 「私はこの部屋にあるもっとも神聖な書物、すなわちアルファベット順電話帳に誓って真実のみを述べる。人生は空っぽである、と。しかし、もちろん救いはある。というのは、そもそもの始まりにおいては、それはまるっきり空っぽではなかった…

百年恋歌/侯孝賢

2007/10/10 3つの時代の恋人たちの模様を、それぞれの時代の様子を背景に描く。 第一部は1960年代。兵役中の男がビリヤード場の女を追いかける物語。 第二部は1910年代。外交官と遊郭で働く芸妓の恋の話。 第三部は2000年代。現代を舞台にした…

中央フリーウェイ

『中央フリーウェイ』という曲とともに思いおこされる、高校時代の記憶がある。 当時の私は、朝六時頃に朝食をたべながら、情報番組をみる習慣があった。ちょうどその時間には、首都圏の交通情報が放送されており、荒井由実の『中央フリーウェイ』をBGMに…

カオス・シチリア物語/タヴィアーニ兄弟

2007/10/7-10/8 シチリア島を舞台に四本のエピソードにエピローグを加えたオムニバス作品。 四本のエピソードでは、アメリカの息子に手紙を送り続ける母親、満月の夜に狼男になる夫、大きな瓶に翻弄される地主と小作人たち、自らの土地に墓地を要求する羊飼…

世界は村上春樹をどう読むか

2007/9/22-10/8 村上春樹が語る成功の理由 「不思議なことに、かつ素晴らしいことに――そしてここにこそ村上春樹の小説の驚異的な文学的成功の秘密がひそんでいるように思えます――村上の登場人物たちは、かつて確かだったものたちが崩壊していくことに、はじ…

自由を考える/東浩紀・大澤真幸

2007/9/24-10/7 「偶有性」と「共感」 大澤「偶有性というのは、他でもありうる、ということです。様相の論理を使えば、偶有性は、不可能性と必然性の否定です。つまり、可能だけれども必然ではないことが、偶有的なわけです。たとえば、今、皆さんは、ここ…