2008-01-01から1年間の記事一覧

リアリティ・トランジット/吉見俊哉

90年代消費社会の諸様相をめぐる、「リアリティ」の捉え方が著されていますが、この本の主張のひとつはディズニーランドをめぐる次の文章に表れています。 現代日本の都市文化を覆っている「かわいい」ことや「オシャレ」なことへのこだわりは、このような時…

ロシアのクリスマス物語

19世紀後半から20世紀前半にかけて発表された、ロシアの作家達のクリスマス物語を収録しています。 温かい、道徳的な話が多いのかと思いきや、皮肉の利いた話なども多く、作品によってクリスマスの捉え方に違いがあるところも興味深いです。 ただ、やはり印…

2001年宇宙の旅/キューブリック

今回、やっと見ることができましたが、多くの人の評のとおり「わからない」という第一印象があります。 映画で見るべきところは、例えば原始人からスターチャイルドへ至る進化の道であったり、未来の旅の具現化であったり、あるいは純粋な映画技術的な要素で…

パン屋再襲撃/村上春樹

『イエローページ』の主張に沿って、「マクシムの解体」をテーマに読んでみました。 それぞれの短編でマクシムが解体する場面は、たとえば次の部分に表れています。 象の消滅を経験して以来、僕はよくそういう気持ちになる。何かをしてみようという気になっ…

美しき結婚/エリック・ロメール

理想の男性との結婚にこだわる、一人の女性の生活を描いています。 彼女はアンティークショップで働きながら修士論文も作成中である、大学院生の身分のようですが、仕事に関しては「商売を替えて楽しみながら売りたい」「モノを作る仕事をしたい」、生活に関…

坂口安吾全集15

ときどき思い返したように読む坂口安吾を読みます。 彼が多くのエッセイの中で言っていること、その一つである「現実へ堕ちよ」という主張が、この本でも繰り返し主張されます。 たとえば、『教祖の文学』では次のような芸術論を述べ、小林秀雄を「鑑定家の…

巨匠とマルガリータ/ブルガーコフ

1930年代に書かれた小説ですが、その時代の意匠も感じる一方で、非常に現代的なものも感じました。それは、人々の考えかたや行動に関してではなく、悪魔であるヴォランド一味のキャラクターについてです。彼らの姿は、例えば古い幻想小説に出てくるものとい…

聖家族/古川日出男

東北を舞台に、ある一族のさまざまな人物を中心にした、近代・現代が語られます。その語りの中で、作者は、正史・偽史のゆらぎや現代の歴史化を試しみているように思えます。 たとえば、『「見えない大学」付属図書館』では、「記録に合わせて現実を修正する…

死霊/埴谷雄高

埴谷氏のインタビューを読んだついでに、『死霊』の一部(ページを折った部分など)を読み返してみました。 改めて読み返すと、「虚体」「自同律の不快」「過誤の宇宙史」「愁いの王」など、インタビューで氏の主張していた部分が、自分でも強く印象に残って…

アビエイター/スコセッシ

映画と飛行機に人生を賭けた実在の人物、ハワード・ヒューズの前半生を描いています。 夢のためには金銭を惜しまない情熱家である一方、極度に神経質なところが見られます。映画の終盤は、彼が病的になっていく様子が描かれていますが、映画に描かれない後半…

村上春樹イエローページ1/加藤典洋

村上春樹の初期の作品を読み解いたものですが、この本の読み方からは、村上氏が常にその時代を見据え、その時代に通底する感性を物語にしていることが分かります。 『風の歌を聴け』では、「金持ちなんて・みんな・糞くらえさ。」という世の中に対する否定的…

新書アフリカ史/宮本正興、松田素二編

アフリカの古代から近代までの歴史の流れを概観した内容ですが、著者たちの共通認識は次の二つのものが柱となっていると感じます。 アフリカの経済・社会の独自性 西洋中心の歴史観ではとらえずらい特徴が、アフリカの経済・社会にはあり、トピックとしては…

善き人のためのソナタ/フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク

ベルリンの壁崩壊前、84年の東ドイツの秘密警察“シュタージ”の内幕を、監視対象者の物語と織り交ぜて描いています。 元シュタージへのインタビューを4年間重ねて作り上げた作品とのことなので、シュタージの様子はおそらく現実のそれに近いものでしょう。…

埴谷雄高独白「死霊」の世界

ETV特集で放送された埴谷氏のインタビューをまとめた内容となっています。氏の生い立ちや、家族のこと、活動のことなどが話されますが、話題の中心は、やはり『死霊』、そしてその中心となる概念である「虚体」「未出現宇宙」です。 これらの概念について…

『カラマーゾフの兄弟』続編を空想する/亀山郁夫

『カラマーゾフの兄弟』の翻訳者である著者が、刊行された本の内容や周辺の人びとの証言から、物語の続編を空想するという内容となっています。 続編は、第一部の「父殺し」を拡大した「皇帝暗殺」がテーマとなること、その実行犯はアリョーシャではなくコー…

青い棘/アヒム・フォン・ボリエス

1927年に「シュテークリッツ校の悲劇」と呼ばれた、実在の事件の映画化作品です。 物語の中に出てくる当時の恋愛の方法、自由な部分と様式的な部分とが混在した様子が面白く感じられました。 ただ、「愛した人を裏切ったものを殺し、そして自分も死ぬ」とい…

リアルのゆくえ/大塚英志・東浩紀

2001年から2008年の秋葉原連続殺傷事件を受けてまでの二人の対談がつづられています。 社会を扱った箇所では、東氏の「社会の工学化」が話題の中心となっており、『情報社会論』や『自由を考える』と共通する主張が述べられています。 いっぽう、人文科学的…

ベルリン、僕らの革命/ハンス・ワインガルトナー

2008/10/24 「ロスジェネ」の若者たちを描いた、ドイツ側からの回答という印象を受けた。 ストーリーは、社会運動を行う若者たちが大会社の重役を誘拐する。重役はかつての革命の闘志であり、若者たちの行動を非難しながらも、思想には共感する。それに三人…

須賀敦子全集 第2巻

2008/9/21-10/19 『ヴェネツィアの宿』と『エッセイ/1957〜1992』の一部を読む。 『ヴェネツィアの宿』では筆者の留学時代の話や少女時代のエピソードを、父親に対する思いと絡めながら追想する。当時のイタリアやフランスの人びとの生活や、留学生たちの様…

月下の一群/堀口大學

325ページまで読む。 一九世紀末から二〇世紀初頭までの、フランス詩の訳詩集。 木や人形、あるいは焼きたてのパンのようなものまで、なにかの象徴であるかのように表現する詩が多い。 また、春の訪れや恋人の前での一瞬に、予感のようなものを見いだす詩も…

甘い泥/ドュロー・シャウル

2008/10/15-17 七〇年代のイスラエルの地域共同体「キブツ」の生活と矛盾を描く。 平等や相互補助がたてまえとなっている共同体の生活の中に、内部からは差別、外部からは外国人やセクシャルなものが生々しくしみ込んでくる。 赤ん坊を共同体で育てるため、…

やかまし村の子どもたち/ラッセ・ハルストレム

2008/10/12-13 先日見た、『ラスムスくんの幸せをさがして』と同じ原作者の児童文学の映画化。美しい自然と、その中で暮らす6人の子供たち。彼らは何でも知りたがったり、歌を歌いながら買い物に出かけたり、と絵に描いたように理想的な村が描かれる。見始…

殺人に関する短いフィルム/クシシュトフ・キェシロフスキ

2008/10/13 前半は、弁護士の善意・清廉さと、ゴロツキの少年やタクシードライバーのむき出しの悪意が、交互に描かれる。 後半は、ドライバーを殺した少年の裁判の様子が描かれるが、彼の悪意のウラにあるものが、弁護士との会話の中で明らかになっていく。

南へ向かう女たち/ローラン・カンテ

2008/10/7-10/10 70年代に、カリブ海のハイチに、現地の黒人男性とつかの間の恋愛を楽しみいく、中年の白人女性たちの生態を描く。また、彼女たちのバカンスの背景に、当時のハイチの政治的状況、強者による弱者の生活への介入の様子などが語られる。 この…

存在の耐えられない軽さ/クンデラ

2008/9/9-10/5 小説論としての小説 「人間生活は楽譜のように構成されている。人間は美の感覚に先導されて偶発的な出来事(ベートーベンの音楽、駅での死)をモチーフに変えるのであり、このモチーフがのちに人生という楽譜に書きこまれることになる。人間は…

キャラクターズ/東浩紀 桜坂洋

2008/9/16-10/2 小説の形をとっているが、その中で作者たちの虚構や小説に関する考えが述べられている。 ・世の中は変化しているように見えるが、そのシステムは案外強固で、たとえば若い作家たちは「変化しない世の中」に照準を合わせて賞を得ている。ある…

愛に関する短いフィルム/クシシュトフ・キェシロフスキ

2008/9/29 中年前の女性と、彼女の生活をのぞき見する19歳の青年の模様を描く。彼をいったんは拒んだ彼女は、彼の純真さに気づき、優しく接しようとする。しかし、少年は彼女の優しさを拒み、手首を切る。 背景は共産主義国にありがちな殺風景な郊外住宅地…

モンソーのパン屋の女の子/エリック・ロメール

2008/9/27 パリのある青年が、恋している知的な女性を待ち伏せするうち、待ち伏せ場所の近くにあるパン屋の娘に魅力を感じ始めるようになる。パン屋の娘を食事に誘った晩、最初の女性と久しぶりに再会した彼は、約束をすっぽかし、彼女と食事に出かけてしま…

ふたりのベロニカ/クシシュトフ・キェシロフスキ

2008/9/21 名前・顔が同じふたりの女性をテーマにしたストーリー。ラストはポーランドのベロニカの存在と死を知った瞬間、フランスのベロニカが彼女との偶然の邂逅を思い出し泣き崩れる、というシーンで終わる。 ストーリー自体はアイデア勝負の作品といった…

ゼロ年代の想像力/宇野常寛

2008/9/7-9/16 ゼロ年代とはどういう時代か 「重要なのはその物語の内実ではない、態度=あり方なのだ。ゼロ年代における物語回帰の問題点はむしろ「人間は何か(の価値、物語)選ばなければいけないのだから、信じたいものを信じればいいのだ」という「あえ…