2016-01-01から1年間の記事一覧

十二月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 12/3 『チェーホフ短編集』 12/25 『せいめいのれきし』 バージニア・リー・バートン

ときめく想いを失くすなんて −『チェーホフ短編集』 3/3

そんた「恋バナ」が多いなか、短編集のラストを飾る『いいなづけ』は、主人公があまり恋愛に夢中にならない、やや毛色の違う作品。 そのかわり、主人公の心をとらえるのは、今の自分の生活を変えること、そしてそれに象徴される古びた社会を変えること。 い…

恋の経過は人それぞれ −『チェーホフ短編集』 2/3

引用した部分からも分かる通り、恋をすると、相手のことがそれまで出逢ったどの人間ともちがう、特別な存在のように感じるらしい。こんなことは大昔から使い古された表現ではあるけれど、チェーホフの巧みな観察眼によっても、この事実は覆せないようだ。 し…

チェーホフ、その恋愛観 −『チェーホフ短編集』 1/3

新潮文庫より『かわいい女・犬を連れた奥さん』というタイトルで出ている、チェーホフの短編集を再読。 いつも通り、気にいった個所に付箋を貼って読んでいるが、今回はなぜか恋愛感情を記述したところが多い。とりわけ、男性の主人公が、自分の思いを分析的…

十一月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 11/3 『崖の上のポニョ』 宮崎駿 11/13 『フィガロの結婚―魔笛/ドン・ジョバンニ/セビリアの理髪師』 里中満智子 11/23 『この世界の片隅に』 片渕須直

青くささと、恋愛を想像する楽しさと ―『ティファニーで朝食を』 2/2

カポーティの人間観も文章のなかから垣間見られる。ただ、若い頃の作品のせいか、その人間観からは少し青くささも感じられる。もしかしたら、その青さこそが魅力的なのかもしれないけれど。 我々の大方はしょっちゅう人格を作り直す。身体だって数年ごとに完…

かなしいお話に触れたくて ―『ティファニーで朝食を』 1/2

最近さみしいな、と感じることが多いせいか、悲しかったり、切なかったりするお話に触れたくなる。『ティファニーで朝食を』もそれがきっかけで読んだ本。映画が少し悲しい物語だったので、原作も読んでみようと思った。 印象は、やっぱり映画どおりというわ…

モーツアルトのピアノソナタ

フリードリヒ・グルダ そういう軽く明るい音に加えるのに、グルダは、非の打ちどころのない技術の卓越の上に、非常によく流れるが、控え目でインティメントな音楽を作る。これは、告白型または激情型のダイナミズムとは違い、羞恥に満ちたといってもよいくら…

ファリャ −「クラシック音楽化」されたスペイン−

ファリャのバレエ音楽『三角帽子』『恋は魔術師』を聴いた。明るい空、怪しげな夜、叙情...。その音楽は誰が聞いたとしても、スペインの色彩を感じるだろう。 この作曲家はスペインで生まれ育ったのち、パリに出てドビュッシーやラヴェルの音楽を学んだ。…

十月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 10/8 『葉と実でわかる 街路樹の呼び名事典』 亀田龍吉 10/15 『もののけ姫』 宮崎駿 10/16 『ティファニーで朝食を』 カポーティ 10/21 『ハウルの動く城』 宮崎駿 10/26 『枕草子(NHKまんがで読む古典)』 面堂かずき 10…

モーツァルト 交響曲第三十九番 変ホ長調

モーツァルトを聴いていると、アンビヴァレントな感覚に襲われることがある。明るさのなかの不安、幸福感のなかの危うさ。 ピエール・モントゥー指揮のモーツァルトが、一枚のCDに収められてある。作品は第三十五番(ハフナー)と第三十九番。堂々としたハ…

ラヴェル −捏造されるノスタルジア−

『ソナチネ』『ハイドンの名によるメヌエット』『マ・メール・ロワ』・・・。綺麗で、ふしぎで、儚げなラヴェルのピアノ曲。 この作品たちと共に過ごしている時間、自分の思いは現実から飛翔し、過去へとさかのぼる。明るく、おだやかだった、幼少時代。小さ…

『チェーホフ・ユモレスカ 傑作短編集1』

チェーホフといえばまずは戯曲、そして短編の名品たち。しかし、彼は二〇代前半からすでに売れっ子作家となっており、スケッチのような小品を多くの媒体に発表していた。この本では、その時代の掌編小説六十五編がおさめられている。 収録作品は、大きく分け…

九月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 9/1 『バルカン超特急』 アルフレッド・ヒッチコック 9/7 『シン・ゴジラ』 庵野秀明 9/11 『海外特派員』 アルフレッド・ヒッチコック 9/15 『更級日記・蜻蛉日記(NHKまんがで読む古典)』 羽崎やすみ 9/18 『逃走迷路』 …

『ひらがな日本美術史3』 橋本治 2/2

姫路城 「白」は、あんまり「豪華」とか「美」じゃなかったんですよね。でも、江戸という管理社会の時代に「白の美」は定着した。だから今でも日本人は、超高層ビルを建てる時には、姫路城のような色彩の「白いビル」を建てるのかもしれない。 「白いものは…

『ひらがな日本美術史3』 橋本治 1/2

変り兜 「戦う」とは、その当人の中に「戦って勝つんだ!」という自己主張があるということである。「婆沙羅」は、「戦う」という雰囲気を濃厚にたたえた時代の、自己主張なのである。そして「婆沙羅」は「ばしゃら」とも「ばしゃれ」とも読む。そうだったら…

Setouchi 2016 3/3

最終日は、豊島へ。ここではクリスチャン・ボルタンスキーの作品が別格。「ささやきの森」「心臓音のアーカイブ」の2作品が展示されている。どちらも現在進行形で生成され続けている作品。 「心臓音」は世界中の人びとの鼓動を録音するプロジェクト。それを…

Setouchi 2016 2/3

2日目は、大島へ。かつてハンセン病患者が隔離されていた島であり、今回の旅行でも必ず訪れたいと思っていた。 他の島と違い、ガイドツアーに参加しながら、島を歩く。島の道路はすべて私道なので、車がほとんど通らない。また、居住者には目が不自由な方、…

Setouchi 2016 1/3

深夜バスは、23時に名古屋駅前を出た。木曜日の夜ということもあり、そして度重なる事故のせいもあり、乗客は定員の3割程度しかいない。 バスは早朝5時に徳島駅前に到着。それ以降、降車する高松までの1時間半、車内から外の風景を見て過ごす。市街地を…

現実化する予言 ―「パンサル」の思想 5/5

2016年現在、『脱いだ』で書かれた下記の部分を読むと、軽い寒気を覚える。「感情コントロール」「情報コントロール」「メシアニズム」などが現実の事となっているいま、「パンサル」の思想は、80年代の流行思想などではなく、意外なほど今日的なもの…

八月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 8/3 『チェーホフ・ユモレスカ―傑作短編集<1>』 8/7 『ゴルゴダの丘』 ジュリアン・デュヴィヴィエ 8/12 『パンツを脱いだサル―ヒトは、どうして生きていくのか』 栗本慎一郎 8/17 『美しい鉱物―レアメタルから宝石まで鉱物…

24年後の世界で −「パンサル」の思想 4/5

2005年に出た『パンツを脱いだサル』は「パンサル」シリーズの完結編。『はいた』(新装版)でも、栗本氏はこの本を参照してほしいと述べていた(逆に、1988年に出た『パンツを捨てるサル』には全く触れていない)。 内容としては、「パンサル」の考…

80年代の新進理論 −「パンサル」の思想 3/5

そして、上述した個々の内容を包括的に見れば、次のような考えかたが導かれるだろう。栗本氏自身の思想はここからさらに発展するわけだから、これらは栗本理論というより「パンサル理論」とでも言うべきものかもしれない。 ・ポランニーの言う原始社会や古代…

聖なる文学、ホムンクルスとしての機械 −「パンサル」の思想 2/5

特に、以下で引用する文章を読んだときは、思わず渋澤龍彦氏のことを連想した。著者も、この本で渋澤氏のことに触れ、尊敬をもって彼の言動を引用している。サドやバタイユを翻訳した渋澤氏のこと、栗本氏も一定の示唆を受けていることは間違いない。 ・文学…

「パンサル」の思想 1/5

今年の春から夏にかけて、栗本慎一郎氏の「パンサル」シリーズ(『パンツをはいたサル』『パンツを脱いだサル』)を呼んだ。栗本氏というと、80年代や90年代によくメディアに出ていて、学者というよりはタレントとしての印象が強かった。 だが、もともと…

チェーホフ、その人間観 −『チェーホフを楽しむために』 阿刀田高 3/3

チェーホフの人間観を探る目的で読み始めたこの本だったが、短編小説家である阿刀田氏らしく、チェーホフの創作のテクニックも紹介している。 読むだけではなかなか思いつかない、書き手ならではの視点で興味深かったので、いくつか引用しておく。 ・時間の…

七月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 7/9 『パンツをはいたサル―人間は、どういう生物か』 栗本慎一郎 7/22 『双頭の鷲』 ジャン・コクトー

チェーホフ、その人間観 −『チェーホフを楽しむために』 阿刀田高 2/3

次の例は、人間の行動に時代の反映を見たもの。以前この本を読んだときは見落としていた。だが、社会と個人の感情は、それなりにリンクしていると感じられるようになった今読み返すと、この恋愛の描き方には説得力が感じられる。 “どうすればいったい、人目…

チェーホフ、その人間観 −『チェーホフを楽しむために』 阿刀田高 1/3

過去のブログを読み直すと、思ってもみなかったことが書いてあったり、時には読んだことさえ忘れていた本の内容が載っていたりする。阿刀田高氏によるこの本は、2007年に一度読んだものだが、そのときブログに引用した二つの文章を読んだだけでも、改めてチ…

六月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 6/14 『ひらがな日本美術史3』 橋本治 6/17 『チェーホフを楽しむために』 阿刀田高 6/24 『寂しさの力』 中森明夫