ベネディクト・アンダーソン グローバリゼーションを語る/梅森直之

2008/8/13-8/17
二〇〇五年にアンダーソンが早稲田大学で講義した内容と、著者がアンダーソンの思想を解説した内容が収められている。
講義の部分では、アンダーソンは『想像の共同体』の限界と、現在取り組んでいる思想について語っている。『想像の共同体』はナショナリズムを扱った本であるが、その下地となるグローバリゼーションを見落としていたという。彼によれば、蒸気船や鉄道、さらには通信技術が発達したことが、左翼における世界的で民主的な政治運動を生み育み、このような状況の中で、世界中のナショナリストが提携し、また深く惹かれあうということが生じたという。(97-98)
現在のアンダーソンの関心事を、梅森氏は次のように解説している。
「(国と国とのあいだには)何もないどころか、そこが、移動する人とモノと情報に満たされた、濃密な空間であったこと、そしてそのような人とモノと情報の交錯の中から、ナショナリズムという思想もまた立ち上がってきたことを、アンダーソンは、僕たちに思い出させようとする。
『想像の共同体』が、ナショナリズムの「図柄」に着目し、その発展と拡散に関心を向けていたとすれば、現在の彼の関心は、その「下地」を描くことにより、「図柄」の意味を浮き彫りにすることに向けられている。出版資本主義はナショナリズムという「図柄」ではなく、むしろその「下地」を織りなしてゆく主要な要素として位置づけ直された。この「下地」の発展と編成がアンダーソンの次なる主題となる。彼はそれを、「グローバリズム」という名で呼ぶのである。」(154)
また、梅森氏はアンダーソンの独自性を次のようにとらえている。もともとグローバリズムという現象を長いスパンでとらえる方法は、経済史の分野では普通に行われていることである。しかし、アンダーソンはグローバル化を、カネやモノの動きではなく、ヒトの認識という次元からとらえようとしている。アンダーソンのグローバル化とは「ある場所で生まれた理念や思想が、世界中を移動し、その土地その土地で固有の意味を帯びながら、人々を新しい実践へ駆り立ててゆくプロセスのこと」なのである。(162)
その上で、梅森氏はアンダーソンの現在の関心を次のように説明している。「経済は境界を越えるための唯一の方法でも、最良の方法でもない。国境も経済も超えた、新しい人と人とのつながりかた。アンダーソンは、その可能性を、グローバル化の歴史そのものの中に探ってゆく。」(164)