2007-01-01から1年間の記事一覧

新・平家物語(二)/吉川英治

2007/8/26-10/5 ?保元の乱の顛末 ?信西の権勢と新院方の大量処刑 ?信頼の権力掌握 ?二条帝の六波羅行幸 ?平治の乱の勃発 「余談を述べすぎたが、以下、主上の御車が、ひとたび、皇居を脱して、六波羅の門へ向かうや、いかにそのことの結果が、時局に急激な転…

秋のにおいとノスタルジア

今日の朝、外に出た瞬間、昨日までとはちがう肌寒い空気のなかに、秋のにおいを感じた。今年初めて感じる秋のにおいだった。このような日は同じにおいに包まれていた過去の記憶が、突然再生される。 あの日の夜、高層ホテルの最上階のレストランで彼女を見か…

桜桃の味/アッバス・キアロスタミ

2007/9/27 主人公のバディは、人生に絶望し自殺願望を持つに至っている。彼は自殺の協力者を求め、車に乗りさまよい続けている。車の同乗者に手を貸すよう頼むが、一人目のクルド人兵士は人を殺すことの恐怖から、二人目のアフガニスタン人の青年はイスラム…

ロバと王女/ジャック・ドゥミ

2007/9/25 シャルル・ペローの童話を元にした作品。実の父である王から求婚された少女の顛末を描く。 監督は『シェルブールの雨傘』のジャック・ドゥミだが、青・赤・パステルの鮮やかな色使いや、幸福感を感じる音楽の使い方はこの作品でも生きている。とく…

『資本論』を読む/伊藤誠

2007/9/17-9/23 114ページで中断 労働価値説 『資本論』全体の基礎となる労働価値説とは、商品の交換価値は、各商品の生産に要する抽象的人間労働(⇔具体的有用労働)の量によって規定される、という学説である。 「『資本論』では、使用価値に対する価値の…

ネーションと美学/柄谷行人

2007/9/2-9/23 超自我の強化としてのワイマール体制 「ワイマール体制は、前期フロイト的な観点から見れば、連合軍=戦勝国たちが、敗戦国ドイツに課した抑圧を内面化した装置だということになるだろう。ドイツ民族を去勢したのは連合軍であり、その背後にユ…

知的複眼思考法/刈谷剛彦

2007/9/2-9/22 批判的読書 「批判的読書の第三のポイントは、著者の論理を丹念に追うことです。論理に飛躍がないかどうか。過度に攻撃的な主張がないか。論理を丹念に追いながら読んでいく。批判的読書の神髄はここにあります。論争が含まれる場合、反対意見…

アニー・ホール/ウディ・アレン

2007/9/21(再見) アレン扮するアルビーと、恋人アニーとの日常と別れを描いた作品。 劇中でいきなり観客に語りかけるシーンや、二人の会話の最中にお互いが考えていることを字幕で流すシーンなど、今でも斬新さを感じる演出方法がある。 面白いのは、作品…

マンハッタン/ウディ・アレン

2007/9/16 アレン扮する主人公のアイザックはTVライターから小説家に転向しようと思案中。そんな中、妻のジルが彼との生活を暴露しようと本を出版する。この危機にある夫婦に加えて、彼の浮気相手の高校生・トレーシーや大学教授夫妻が絡む人間模様が、ニ…

冬の光/ベルイマン

2007/9/9 北欧の小さな町で牧師をしている主人公は、ある夫婦から相談を持ちかけられる。夫がふさぎこんでいる、という相談に、牧師はいい加減な気持ちで慰めるが、そのことを後悔している間に夫は自殺してしまう。 舞台背景となる冬の寂しい漁村の風景や、…

90年代の都市論

以前日記で『攻殻機動隊』のことを書いたが、この映画の特徴として舞台背景となる「都市」が詳細な描写がある。そして、この描写で私はウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』や『天使の涙』を思い出した。どちらも現代のアジア的大都市が描かれているが、…

プルーストを読む/鈴木道彦

2007/7/24-9/4(再読) 想像力・知覚・幻滅 「バルベックは、荒れ狂う嵐と、霧と、ノルマンディ式ゴシック建築の教会だけから出来ているわけではない。またその教会にしても、「ノルマンディ式ゴシック」というだけでは、具体的なものは何一つ分からない。し…

とことん!押井守

8月前半にBS2で放映していた押井守特集のうち、前述の攻殻機動隊に続いて4作品を視聴した。 作品のあとに放送された監督自身によるコメントとともに、印象に残った点を記しておく。 ・『天子のたまご』 内容自体はよく分からないものだった。ただし、放…

情報自由論/東浩紀

2007/8/18-8/27 環境管理型権力とアーキテクチャ 「(キセル乗車への対策について)自動改札機の導入はこれらの問題を解決する切り札である。自動改札機が導入された改札口では、キセルを試みようとしてもその可能性がない。(中略)しかもその規制は、切符…

影の現象学/河合隼雄

2007/8/11-8/26 影の反逆 「このような集団(投影が規制され影を自覚することが難しくなった集団)が強力であることはもちろんである。しかし、どのような強いものも何らかの弱点をそなえている。このような集団は、あるときに強烈な影の反逆を受け、それに…

太宰治短編集

2007/8/11-8/26 女生徒 「自分から、本を読むということを取ってしまったら、この経験のない私は、泣きべそをかくことだろう。それほど私は、本に書かれてある事にたよっている。一つの本を読んでは、パッとその本に夢中になり、信頼し、同化し、共鳴し、そ…

ハンナ・アーレント入門/杉浦敏子

2007/7/29-/8/10 アーレントの思想を『人間の条件』を中心に解説。 判断力 「判断力とは、共有される公共的空間を保持するための共同的な理性的能力であり、公的生活、公的幸福について判断を下す能力なのである。人々がこの共同世界、公的世界の在り方に無…

アメリカ ニュース報道の危機(BS世界のドキュメンタリー)

2007/8/8 第3回、最終回のみ視聴。 現在のアメリカの報道における問題について、以下の問題点が挙げられていた。 ・ジャーナリズムの質が変容している。報道側が伝えたいことではなく、視聴者が知りたいことを伝えるようになり、ジャーナリズムにおける公共…

攻殻機動隊/押井守

2007/8/7 人間が半機械化、ネットワーク化した時代のサイバーテロと、それに立ち向かう機動隊を描いた作品。 舞台背景としての近未来都市が非常に魅力的だった。高層ビルがそびえる大都市の傍らに、香港の下町のようなスラムが広がる。街の様子を描いた部分…

ベリッシマ/ヴィスコンティ

2007/8/5(再観) 娘をオーディションに合格させようとして奮闘する母親を描いたドラマ。 イタリアの下町の様子がとても生き生きと描かれている。明るい乾いた日差しの下で、イタリアのおばさんたちは本当によくしゃべる。生卵に穴を開けて吸ったり、歌いな…

二時間のゴッホ/西岡文彦

2007/7/23-8/5 ゴッホの色彩の秘密 「白といえば、地塗りの色と思われがちだが、その真価はむしろ「上塗り」によって発揮される。 上塗りは、なまの色がぶつかって調和の乱れた画面を補正する奥の手で、全体にひとつの色を薄く塗って、その色のベールによっ…

タクシードライバー/スコセッシ

2007/8/2-3 夜のニューヨークを舞台に、一人のタクシードライバーの(非)日常を描いた作品。 冒頭、世間に対する愚痴を言いながら、主人公は夜の街をタクシーで流す。サム・テイラー風の音楽がBGMとして流れるが、まずこの場面の気持ちよさに魅せられた…

タンゴ/パトリス・ルコント

2007/7/30-7/31 別れた妻が別の男と楽しむのが耐えられない、そのために妻を殺そうとする男と、彼と一緒に妻を探しに行く二人の男の物語。 ストーリーも面白いが、それ以上にこの映画の舞台描写が好きになれた。フランスの乾いた明るい農村部の風景、カー・…

プロヴァンス(アラン・ド・ボトン)

「わたし自身の眼も、周りを見るとき、ヴァン・ゴッホのキャンヴァスを支配している色彩を見るのに、しだいに適応してくる。どこを見ても、原色のコントラストが見える。家の横手には紫色のラヴェンダー畑があって、隣り合って黄色の小麦畑がある。建物の屋…

コンテンツの思想/東浩紀

2007/7/23-7/29 『ノルウェイの森』の意義 「『世界の終わり』は、まさにこの『ノルウェイの森』を準備した作品だと思います。あれは、要するに、僕は脳内世界でオッケーだから現実には戻りません、という話ですからね。 その態度は新海さんの映像の走馬燈的…

ロリータ/エイドリアン・ライン

2007/7/28 以前原作を読んだことがあったが、内容の確認も兼ねてこの映画を鑑賞した。 「夢のアメリカ」 『ナボコフ短編全集Ⅱ』のあとがきに「夢のアメリカ」という言葉が出てくる。これはナボコフがいくつかの短編の中に用いているイメージであり、のちの『…

青い花/ノヴァーリス

2007/7/8-7/28 青年ハインリッヒが旅に出て、さまざまな人と出会い、詩人になる決意をするまでの物語。作者の夢・自然・歴史・詩に対する考えが物語の端々に刻み込まれている。また、ハインリッヒの性格や物語の展開そのものが非常に素直であり、小さい頃に…

ゲーム的リアリズムの誕生/東浩紀

2007/7/9-7/22 ライトノベルの本質 「ライトノベルの作家と読者は、戦後日本のマンガやアニメが育てあげてきた想像力の環境を前提としているために、特定のキャラクターの外見的な特徴(さきほどの引用箇所では「眼鏡」「小柄」といった表現)がどのような性…

湯浅(澁澤龍彦)

(施無畏寺にて)「この断崖絶壁となった山頂から、湯浅湾の海を一望のもとに見渡すことができるのだった。 私は巨岩の上に腰をおろして、汗ばんだ肌を風になぶらせながら、この古い日本の風景のアルケタイプ(原型)とでもいえそうな、眼下にひろがる海を眺…

潤一郎ラビリンスⅥ−異国綺談/谷崎潤一郎

2007/6/30-7/21 独探 「その相手になる彼等は一体どう云う種類の「娘」たちであろう。どう云う積りで、彼等はこんな小説じみた段取りを仕組んで、気心の知れぬ西洋人と手数のかゝった慰みごとをするのであろう。私には全く訳がわからなかった。手紙を通じて…