2007-01-01から1年間の記事一覧

生きものの記録/黒澤明

2007/7/17-7/18 「わしは今、不安で不安でたまらん。しかしな、こうさせたのはあなた方ですぞ。わしは今、あなた方のおかげで、手も足も出ん。何にもできん。ただ黙って水爆の恐ろしさを考えとる、考えとるだけじゃ。ところがな、考えれば考えるほど、いても…

セザンヌ―孤高の先駆者/ミシェル・オーグ

2007/7/7-7/16 「セザンヌのデッサンが規範から「逸脱」するのは、1880年以降である。果物皿や瓶は垂直ではなく、テーブルクロスの両端からのぞくテーブルの縁は互いにずれており、りんごは斜めになった長持の蓋の上に不安定にのっている。それまで絵画とは…

菊次郎の夏/北野武

2007/7/14 この映画から、北野武は非常に「日本」を意識するようになったのではないかと思えた。それは、作品冒頭に出てくる浅草の下町的な描写、競輪やバイパスの駐車場などの郊外的描写、田舎の自然や夏祭りを描いた地方の描写に表れている。それらの場所…

太陽はひとりぼっち/アントニオーニ

2007/7/8 株式仲買人の男性と恋人とわかれた女性の恋の記録。 映画自体に冗長な印象を感じてしまい、また印象的な場面が見出せなかったこともあって、一時間程度で鑑賞を止めてしまった。映画の冗長さは、ヒッチコックの一部の映画でも感じることがある。「…

新・平家物語(一)/吉川英治

2007/5/27-7/6 Ⅰ清盛が出生の秘密を知る Ⅱ清盛の青春時代の恋と結婚 Ⅲ清盛が比叡山の強訴を退ける Ⅳ藤原頼長一派の隆盛 Ⅴ後白河天皇・忠通と崇徳上皇・頼長の対立 「街の男女は、上皇をたびたびお見上げしていたが、上皇には、通るたびに、街が、物珍にお見…

シェルブールの雨傘/ジャック・ドゥミ

2007/7/3 この作品は悲恋の物語にもかかわらず、どこか幸福感があった。それをもたらしてくれるものは、映画の色彩と音楽であろう。オープニングは上空からシェルブールの通りを色とりどりの傘が行き交う場面からはじまる。その後も、ドアや壁の深く鮮やかな…

楽しい古事記/阿刀田高

2007/6/16-6/30 『古事記』の内容の紹介や、著者なりの解釈を記したエッセイ。古事記は以前、福永武彦訳で読んだことがあったが、全体の流れがいまいち理解できなかった。それを補足するものとして、このエッセイを読んでみた。 海幸彦山幸彦 以前読んだとき…

暗黒のメルヘン/澁澤龍彦・編

2007/5/19-6/29 現代日本文学の幻想小説を編んだアンソロジー。 編集後記において、編者である澁澤は次のように言っている。「幻想的な物語のリアリティーを保証するのは、極度に人工的なスタイル以外にはないとさえ考えている。スタイルさえ面白ければ、そ…

二時間の印象派/西岡文彦

2007/6/2-6/17 印象派の父・モネは何を描こうとしたか 「なぜならば、彼が画家を志したのは、ブーダンによって「描かれた絵」を見てのことではなく、ブーダンによって「描かれつつある絵」を見てのことだからである。すでに「描かれた絵」の完成された美しさ…

『パサージュ論』熟読玩味/鹿島茂

2007/6/3-6/16 難解なベンヤミンの『パサージュ論』を解説した本。著者によれば、ベンヤミンが『パサージュ論』において試みた歴史学とは「集団の夢」が出現する瞬間を捉えることである。そしてこの集団の夢とは、アルカイックなものの記憶やノスタルジーを…

大人は判ってくれない/トリュフォー

2007/6/16 「トリュフォーの少年時代を描いた自伝的映画」と紹介される作品。映像や音楽が、少年時代の持つみずみずしさに充ちている。また演出かは判らないが、画面全体が軽く霧がかっているように見えた。私にはこれが、幼年期の記憶の、ノスタルジーを持…

好奇心紀行/阿刀田高

2007/5/14-6/9 「私自身は比較的繁く図書館を利用するほうだろう。小説家は仕事がら自分の周辺に蔵書をたくさん抱え込んでいるけれど、昨今は住宅事情に限界があって、なにもかも手もとに置くというわけにはいかない。 雑誌類について言えば、私は目次だけを…

処女の泉/ベルイマン

2007/6/3-6/8 中世の民間信仰とキリスト教が混在するスウェーデンが舞台。豪農の娘カーリンは教会に行く道すがら、三人の乞食に暴行され、殺される。乞食たちは豪農の家に宿を求めに行くが、所持品から娘を殺した犯人であることが判明、父親に殺される。次の…

生き延びるためのラカン/斎藤環

2007/5/26-6/2 ラカンにおける「言葉」 ラカン理論の基礎概念をわかりやすく紹介した本。さまざまな理論を紹介する中でも、著者は特にラカン理論における「言葉」の重要性を強調している。 「この本は、言葉と心の関係についての話からはじまった。つまり、…

逃げ去る恋/トリュフォー

2007/5/27鑑賞 主人公アントワーヌは、かつての恋をネタとして小説を出版している。映画は、主人公とネタにされた二人の女性、そして彼が「写真を見て一目ぼれした」という現在の恋人のサビーヌを中心に進む。物語は妻であるクリスティーヌとの離婚、かつて…

津軽/太宰治

2007/5/4-5/26(再読) 過去に読んだ本であるが、実に八年ぶりに再読した。以前読んだ時の記憶は断片的に残っているだけであり、読み返すと案の定忘れている箇所が多い。次のような風景描写はまったく覚えていなかったが、今回の読書で強く印象に残った。 「…

デュルケム「自殺論」を読む/宮島喬

2007/5/19-5/26 デュルケムは十九世紀後半の自殺増加の要因を、「近代的な自我の危機」としている。 「近代的な自我というものが危機を経験するときには、その危機の経験の仕方は二つあるということです。一つは、自己の内部に孤立化してとじこもるような危…

憎いあンちくしょう/蔵原惟繕(くらはらこれよし)

2007/5/24鑑賞 石原裕次郎・浅岡ルリ子扮する主人公が、依頼されたジープを東京から阿蘇まで運んでいくという物語。東京〜名古屋〜京都〜大阪〜四国〜九州と舞台が移り変わり、映画が撮影された昭和37年当時の風景が映し出される。大都市の埃っぽさ、地方の…

カラマーゾフの兄弟/プィリエフ

2007/5/6-5/19 ドストエフスキーの傑作小説を映画化した作品。小説の思想性を表現するまでにはさすがに至っていないが、役者や舞台装置等が素晴らしい。教会や裁判所などは、小説を読んだ時にイメージしていたものと違っており、当時のロシア社会の様子を知…

あら皮/バルザック

2007/4/28-5/17 魔法の力を持つ「あら皮」を手にしたことにより運命が変わっていく、ある青年貴族の物語。軽薄な女性たちとの恋愛に一度は絶望した主人公が、裕福で洗練された魅力を持つフェドラ、貧乏暮らしだが可憐で思いやりのあるポーリーヌという対照的…

ユング心理学入門/河合隼雄

2007/4/28-5/17 ・タイプについて 「ユングも指摘しているように、実際には、自分の反対の方の人を恋人や友人に選ぶ傾向も強いのである。これを簡単に述べると、自分と同型のひとに対しては深い理解を、反対方のひとに対しては効しがたい魅力を感じて結ばれ…

夢のある部屋/澁澤龍彦

2007/4/14-5/11 六十〜七十年代に書かれた澁澤龍彦のエッセイ集。オブジェや現代文化、エロティシズムに加え、彼が居を構えていた鎌倉についての記述もある。 「徹夜の仕事を終えて、朝風呂に入っていると、澄み切った声で最初のヒグラシが鳴き出す。それは…

澁澤龍彦との日々/澁澤龍子

2006/4/28-5/6 「澁澤との日々を改めて考えてみると、世間一般でいう、いわゆる家庭生活というものがあったのか疑問に思います。地に足つけて、しっかり日常を生きるというよりも、今でもそうなのですが、幻想のなかに生きているような、夢のなかにいるよう…

『ヴィーナスの誕生』視覚文化への招待/岡田温司

2007/4/15-4/24 「ウィントとパノフスキーの解釈は、いわゆる「双子のヴィーナス」にまつわる新プラトン主義の理論にかかわるもので、ボッティチェッリの二枚のヴィーナスをこの理論に結びつけるという点で、基本的に一致しています。プラトンにさかのぼり、…

沈める滝/三島由紀夫

2007/3/25-4/23 「女は理由もなく、ちょっと歯を露わすだけの、持ち前の吝しむような微笑をした。昇に対してもう自信をもっているこんな微笑が、彼にいつもながらの抽象的な喜び、「愛されている」という思い込みから来る女の心理的な自閉状態を外からゆっく…

歩きながら考える/鶴見良行

2007/4/22読了 「こんど出した『マングローブの沼地で』でも書いたことですが、つまり日本近代が持っていた、というより、むしろ日本史がもっていたと言ってもいいのですが、大きなものに憧れるという姿勢をどこかでこわしたいんです。日本が一つの国である…

あこがれの系譜

あこがれの系譜とでも言うべきものを辿っていくと、高級ホテルや劇場、美術館といった場所に行き着く。それらの場所で感じられるものを、あえて表現するとなれば「幸せな幼少期の記憶」とでも呼ぶべきものであろうか。私が高級ホテルや美術館を好きな理由は…

新約聖書を知っていますか/阿刀田高

2007/3/24-4/13 「本当に神の子であるということは、どういうことなのか。だれにもわからない。あえて言うならば、それは、神の子であると強く、疑いなく確信することではあるまいか。少なくとも、この二つには大差がないように私には思えてならない。(中略…

アメリカが見たカストロ/カストロ・人生と革命を語る(BS世界のドキュメンタリー

2007/4/1-4/8視聴 「何が普遍的に正しいかを理解せずに、どう生きていけるのか。それでは世界は救われない。我々の経験したことが、良い先例として広まることを望んでいる。著作権も特許もいらない。その代わり、我々は誇りを手にすることだろう。世の中に役…

アレント・公共性の復権/川崎修

2007/3/11-4/7 「アレントによれば、東南欧における少数民族保護の失敗に終わった試みは、国民国家の機能をきわめて明瞭に表現したという。すなわち、「国家の市民たることとナショナルな帰属とは不可分であること、同じナショナルな起源を持つ者のみが法律…