影の現象学/河合隼雄

2007/8/11-8/26

影の反逆

「このような集団(投影が規制され影を自覚することが難しくなった集団)が強力であることはもちろんである。しかし、どのような強いものも何らかの弱点をそなえている。このような集団は、あるときに強烈な影の反逆を受け、それに対してまったくの無防備であることを露呈する。凝集性の極度に高い集団は短期間には、その強力さを発揮するが、いつかはそのもろさをつかれて影の反逆に屈する。影は外部から攻撃してくるときもあるし、内部に突如として生じるときもある。このような極端な反転現象は歴史を少しひもといてみると、随所に見いだすことができるものである。」(52)

『地獄』と現代

「さりとて、われわれは地価に地獄の存在を認めることはもうなし得ない。ここで、われわれはかつての人類が思想の完結のために、世界を死後の世界や地界にまで拡張したように、ひとつの世界の拡張を行うべきではないだろうか。それは、われわれの心の世界の拡張であり、われわれの知っている心の世界の下に――あるいは上に――より広い領域の存在することを認めるべきであり、それは取りもなおさず、おのれの心の中に地獄を見出すことになるであろう。おのれの心に地獄を見出し得ぬ人は、自ら善人であることを確信し、悪人たちを罰するための地獄をこの世につくることになる。心の世界を拡張するということは、近代科学によって否定された魂の存在について、もう一度見直すことにもなるであろう。」(168-169)

『秘密』の意味と生き方の改変

「この先生は私の話を聞き納得し、それでは思いきって自分の吃音であることを全校の人にさらすことにしましょうと言って帰られた。ところで、卒業式の日、この人は何もどもることなく名簿を読みきったということであった。大切なことは秘密の改変の意味と生き方の変更にある。この人が内的に秘密を明らかにする意味を知り、人生の後半に向かって生き方を改変する決意をした後では、むしろ外的な破局めいた体験は不必要なのであったろう。これとは逆に、外的な破局を中年のときに体験し、その内的な意味を知らぬままに転落する人も存在する。」(181)