秋のにおいとノスタルジア

今日の朝、外に出た瞬間、昨日までとはちがう肌寒い空気のなかに、秋のにおいを感じた。今年初めて感じる秋のにおいだった。このような日は同じにおいに包まれていた過去の記憶が、突然再生される。
あの日の夜、高層ホテルの最上階のレストランで彼女を見かけた。あるいは彼女ではないのかもしれない。僕は彼女に気付かれないよう、少しずつ視線を走らせていった。
彼女が午後のロビーで見つけた少女か、あるいは別人か、食事をする彼女とロビーで見たおぼろげな記憶を照合させる。服装や両親の顔を覚えていなかったことを後悔する。
デザートがはこばれ、その日の食事が終わる。僕は父親に続いて彼女のそばを通りかかる。拒絶されることを恐れつつ、彼女の顔に焦点を合わせる。
やはりロビーの少女だ。
その瞬間、眼の前のかすみは消えさり、僕の恋ははじまるのだ。