プロヴァンス(アラン・ド・ボトン)

「わたし自身の眼も、周りを見るとき、ヴァン・ゴッホのキャンヴァスを支配している色彩を見るのに、しだいに適応してくる。どこを見ても、原色のコントラストが見える。家の横手には紫色のラヴェンダー畑があって、隣り合って黄色の小麦畑がある。建物の屋根はオレンジ色で、背景の空は純粋な青、緑の牧場には点々と赤い芥子の花が散らばり、夾竹桃が周りを囲んでいる。
色彩溢れる昼間だけではない。ヴァン・ゴッホは夜の色彩も、同じように抽き出している。先行するプロヴァンスの画家たちは、暗い背景に小さな白い点のグループを描くことで、夜空を描写している。しかしながら、プロヴァンスの空の下に、澄みきった夜、人家の明かりや街灯から遠く離れて坐ってみると、夜空はじっさいはおびただしい色彩を含んでいることがわかる。星々の間には深い青が、紫が、非常に暗い緑があるように見える。星々それ自体は淡い黄色に、オレンジ色に、緑色に、星自体の狭い円周から遥か遠くまで光の輪を放散しているように見える。」(『旅する哲学』(253))