マレー蘭印紀行/金子光晴

2008/3/19-3/30
著者が旅した昭和初期の東南アジア、その自然や人々、農園、進出した日本人の様子が描かれる。
この本を読んでいる時間、自分の中にある記憶が呼び起こされるのを感じた。地方に住んでいた学生時代、毎年大晦日の深夜に家を出て、車で一時間半ほどの寺に行き、元旦の未明に祈祷を受ける習慣があった。
その場所に行くと、暗く寒い山の中に、そこだけ暖かい光に満たされた空間がぼおっと浮かんでいたのを覚えている。それは、私の普段の生活の向こう側にある、どこか現実味のない空間だった。
この本で描かれている東南アジアは、太陽の明るい南国ではない。それは野生的な植物に覆われ、外来文明と土着の文化が奇妙に溶け合う、おどろおどろしさを持った土地として描かれている。そして、その印象は、暗い夜の風景を思い起こさせるものであった。
この暗い夜の中のぼうっとした暖かい光、それが東南アジアの風景を描き出す、この本の視点なのだと感じた。