華やかな食物誌/澁澤龍彦

2008/4/14-5/27
食にかかわる古今東西の題材を扱ったエッセイのほか、西洋美術や日本の中世美術、現代芸術に関する評論が収められている。
印象に残ったのは『ヴィーナス、処女にして娼婦』という、いかにもこの本の著者らしい短編。
処女と娼婦、この相矛盾するかのような二つのものには、ある共通した特徴がある。それはいずれも妻たる身分、家庭生活というものに甘んじず、現世的な配慮なしにエロスの活動に打ちこむ女性、ということである。この典型がアプロディテであり、家庭の母的な性格の強いデメテールと好対照をなしている。またこの女神が、非日常の破壊行為である戦闘の女神であることも指摘されている。
最後に著者の好きな、ローマのテルメ美術館にある「キュレネのヴィーナス」について述べられてある。
本書の後半には、『建長寺あれこれ』というエッセイがある。当時の著者の住まいである北鎌倉の、古刹や自然の様子が描かれている。近いうちに鎌倉に行く機会があれば、この作品で紹介されている場所を訪ねてみたい。