海辺の社会史/鶴見良行

2008/4/29-5/12
・移動分散型社会
「定着農耕社会で権力の基盤は土地だった。移動分散型社会では、権力の基盤は人間である。どれだけ多くの人間を自分の配下に惹きつけておけるか。それがこの社会の権力の秘密である。定着農耕社会では農民は放っておいてもそこにいるから年貢をとりたてられるが、移動分散型社会では、住民がどこへ動いていってしまうかわからない。」(78)
・中央につらならない社会
「マルク圏の行政的中心は、アンボン島のアンボン市であり、ここから各島へ船が出ているに違いないと、東京都民の私は考えた。ところがそうはなっていない。アンボン島を覆う形のセラム島に渡るには、目的地ごとにアンボン北岸のあちこちから不定期の船が出ていて、そこまで足を運ぶしかない。これを不便と感じるのは、私たちが放射状の中央集権制に慣れているからである。私たちは放射状文化の住民であるが、地球のすべてがこうした文化を育てていたわけではない。中央につらなるよりも、隣村、対岸との連絡を大切とした人間もいたのである。」(204)
・国境主義史観を超える歴史学
「私は、歴史学という学問が、いつも国家という単位で計られることを不思議に思ってきた。島嶼東南アジアでは、さまざまな異邦人の交流としてしか歴史は描けない。スルーのバジャウ族の会話を、中部ルソンのフィリピン人とスンダ語、ジャワ語、インドネシア語をよくする男とに聴かせたことがあるが、後者の方がむしろよく理解した。住民を世界の一部として考えていく、国境で区切らない。そうでないと、東南アジアのことはわからない。」(261)