現代中国文化探検/藤井省三

2008/2/2-2/11
近代・現代の中国の都市文化を、それらが表象された都市文化とともに解き明かしてゆく。
北京では、「単位」で構成される社会と、現代におけるその危機を述べる。
上海では、戦前に全盛期を誇ったオールド上海の様子とそれを表象するメディアの状況を紹介し、また、現代の上海がオールド上海に比べ、主題として未成熟であるとする。
香港では、「文化砂漠」と呼ばれた時代から、現代の映画までに通じる「奇形文化」が登場するまでを、ひとつの論として述べる。
台北では、戦前に在台邦人と台湾人との連帯による文化的台湾ナショナリズムがおこったこと、また現代の国際的評価の高い台湾映画は、本国ではほとんど見向きもされていない状況を紹介する。

王家衛の香港

著者が紹介するさまざまな映画の中でも、個人的にも好きな王家衛論が面白かった。
恋する惑星』については次のように述べている。
「映画は恋人たちの香港からの離陸と香港への回帰とを軽快に描いている。それでも主題歌が歌う夢現のうちには、現在の軽快な変身譚も九七年の中国の返還後には果たして可能であるのか、という不安が込められているのではあるまいか。『恋する惑星』は国際都市香港の人々の不敵なまでの活気とその背後に潜む九七年への不安とを見事に描き出したといえよう。」(160-161)
天使の涙』の主題のひとつは「パートナー」であるとし、金髪娘との別れの場面で男がつぶやく「皆、パートナーが必要だ。俺のパートナーはどこに……。」という台詞を引き合いに出し、イギリスに変わり否応なしにパートナーとなる中国への返還後の不安を描いているとする。(162-163)