新・平家物語(一)/吉川英治

2007/5/27-7/6
Ⅰ清盛が出生の秘密を知る Ⅱ清盛の青春時代の恋と結婚 Ⅲ清盛が比叡山の強訴を退ける Ⅳ藤原頼長一派の隆盛 Ⅴ後白河天皇・忠通と崇徳上皇・頼長の対立
「街の男女は、上皇をたびたびお見上げしていたが、上皇には、通るたびに、街が、物珍にお見えらしい。眸だけが、ひんぱんに、左右へうごいた。ときには、何かへお眼をとめて、ホホ笑まれたりされるのだった。――と知ると、道ばたの庶民も、上皇の視線の先をさぐって、一しょに笑い合った。――そういう親しみを、不敬とよんで、庶民に土下座を強いたのは、もっと後世の風習である。武将が政権をにぎってからのことだ。武門の威光とか警戒などを、かりにも、ゆるがせにできないような世相人心を、みずからつくりあげたときに、必然、興った制度だった。――当時、朝廷と院政との、二元政治の変則を見たほど、世はすでに、紊れの端緒をみせていたが、まだちまたには、こんなある日の春風も流れてはいたのである。」(59-60)