2009-01-01から1年間の記事一覧

『木村伊兵衛と土門拳』 三島靖

2009/7/2読了 木村伊兵衛の写真 (1930年代に撮られた熱意と気負いにあふれた写真に比し)木村のは、まるで、“さっき撮った”かのように見える。写っているものは庶民の風俗史ということになるのだが、社会性を重んじた観察眼で撮っているようには見えない。…

六月に読んだ本・観た映画

ブログに書いた作品のほか、六月は以下の作品を鑑賞した 6/11 『バッファロー'66 』 ヴィンセント・ギャロ 6/15 『名曲に何を聴くか―音楽理解のための分析的アプローチ』 田村 和紀夫 6/19 『アジェのパリ』 ハンス・クリスティアン・アダム 6/27 『汚れた…

『大菩薩峠 完結編』 内田吐夢

2009/6/22鑑賞 甲州では奇妙な殺人事件が頻発している。そのなかで、お玉はお君と名前を変え、屋敷に奉公する。 一方、嫌疑をかけられて投獄させられた兵馬は、ともに投獄されている倒幕の士とともに脱獄する。 龍之介と兵馬は一時対峙するが、邪魔が入り決…

『ランボー 自画像の詩学』 中地義和

2009/6/10読了 ランボーの詩を、「架空の自画像を描く運動として捉える発想」(17)が、この本のランボー理解の起点となる。 それを前提とした上で、著者はランボー詩の次のような特徴をあげていく。 ・自伝的に見える詩も、真実の話ではなく、「かくもありえ…

『大菩薩峠 第二部』 内田吐夢

2009/6/15鑑賞 第一部で畿内の南下を始めた机龍之介は、紀州でお豊と行動を共にする。一方で、龍之介を追う兵馬は、祖父を殺されたお松と落ち合う。 伊勢古市では芸妓のお玉を知りあう一方、お豊は彼女に手紙を託し、自害する。 大湊(兵馬、お松はここから…

『村上春樹 イエローページ2』 加藤典洋

2009/5/27読了 『ノルウェイの森』 直子とは僕の分身、僕の鏡である。直子と僕の関係は、こうして、自分ともう一人の自分の関係、一個の内閉的な世界像を体現する。(中略)これに対し緑は、彼を内閉世界から外に連れ出す存在として現れるが、影が、いわば倫…

『ねじまき鳥クロニクル』 村上春樹

2009/5/22読了 「あなたはよそで作られたものなのよ。そして自分をつくりかえようとするあなたのつもりだって、それもやはりどこかよそで作られたものなの。〜それがわからないというのは、たしかに大きな問題だと思うな。だからきっとあなたは今、そのこと…

ヴィデオを待ちながら 映像、60年代から今日へ/東京国立近代美術館

2009/5/28鑑賞 ヴィト・アコンチ、野村仁などの、60年代、70年代における映像作品を中心に展示。 どの作品も、映像による「異化」や、見ること/見られることの脱構築といった、当時の現代思想とつながりの深いテーマを追求しています。 しかし、当時のもう…

五月に読んだ本・観た映画

ブログに書いた作品のほかに、五月は以下の作品を鑑賞しました。 5/11 『雨』 ルイス・マイルストン 5/12 『慕情』 ヘンリー・キング 5/16 『めまい』 アルフレッド・ヒッチコック 5/24 『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』 岡田 暁生 5/28 『バベル』 アレ…

国立トレチャコフ美術館展 忘れえぬロシア/Bunkamura ザ・ミュージアム

2009/5/26鑑賞 近代のロシア絵画の展覧会となりますが、均衡のとれた西欧の絵画とはまた違った、素朴な魅力や親しみやすさがあります。今回は以下の絵葉書を購入しました。 ≪愛の告白≫ ウラジーミル・マコフスキー ロシアの室内画に親しみやすさを覚えるとす…

『ランボー『地獄の季節』詩人になりたいあなたへ』 野村喜和夫

2009/5/17読了 ランボーが目指したこと、著者によればそれは、既成の美の破壊、言語体系の破壊と再構築となります。 ランボーの詩の行為の本質がここに早くもうかがわれるわけだ。彼はこうしたいと考える。「美」=詩の取り澄ました外観をあばき、その醜い内…

『ココス島奇譚』 鶴見良行

2009/5/5読了 旅先のインドネシアで読みました。おそらく氏の著作の中では、最後に読む著書となるでしょう。 インド洋に浮かぶ、ココス島を舞台として、そこで成立していたイギリス人による「王国」や、トラックシステム等による収奪の歴史が描かれます。こ…

『サブカルチャー神話解体』 宮台真司 石原英樹 大塚明子

若者のサブカルチャーを分析したものとして著名な本書ですが、総論よりは次のような個々の事象の分析に、氏の解釈の面白さを覚えました。 たとえば、「私的な場面で、しかし決して「本当の<私>」同士が出会わないような、それでいて持続的なコミュニケーシ…

ロベール・ブレッソン特集

2009/4/13-22鑑賞 シネフィル・イマジカで放映された、ロベール・ブレッソン作品集を見ました。(『スリ(掏摸)』『バルタザールどこへ行く』『少女ムシェット』『ラルジャン』) どの映画も、静謐な演出の中に、運命論的な悲しみが描かれていると思います…

『新編・琉球弧の視点から』 島尾敏雄

2009/4/4読了 著者の発案による、「琉球弧」という考え、及び奄美や沖縄で感じた印象がつづられています。 ぼくは日本の中に、ある固さが感じられて、それから抜け出したいというような気がしている。どういう形だといわれると、これもちょっと困るんですけ…

『国境の南、太陽の西』 村上春樹

2009/3/29読了 この作品は、それまでの氏の作品と比べ、非常に生活感のある印象を受けます。主人公が家族を持ち、一市民としてまっとうな生活を送っている、また幻想的なものや非現実的なものを排除しているところにもそれが窺われます。 義父が主人公に語り…

『灯台へ』ヴァージニア・ウルフ/『サルガッソーの広い海』ジーン・リース

2009/3/21読了 『灯台へ』 物語は大きく二つに分かれており、前半はある哲学者の一家が灯台行きを計画し、それが頓挫するというエピソード、後半はその十数年後に、成長した家族が晴れて灯台行きを決行するエピソードとなっています。出来事としては単純なも…

『ボーイ・ミーツ・ガール』 レオス・カラックス

2009/3/17鑑賞 「ボーイ・ミーツ・ガール」というポジティヴな印象を受けるタイトルとは裏腹に、主人公のアレックスがパリの街を歩き、街のいたるところで拒絶される思いを味わうような、絶望感の漂う作品。何度も挿入されるガラスの割れるシーンや、レコー…

ルーブル美術館展 17世紀ヨーロッパ絵画/国立西洋美術館

2009/3/20鑑賞 ルーブル美術館所蔵の17世紀絵画を紹介する展覧会となっており、印象残った次の4枚の作品の絵葉書を購入しました。 ≪ド・ブロワ嬢と推定される少女の肖像≫ ピエール・ミニャール 王族の少女を描いた肖像ですが、明るい衣装やかわいらしいポー…

『村上春樹のなかの中国』 藤井省三

2009/3/15読了 村上春樹のなかの中国 第1章では村上作品の中に、中国という国家や中国人、日中関係がどのように影響を及ぼしているかを、『中国行きのスロウボート』『トニー滝谷』『ねじまき鳥クロニクル』『アフターダーク』等の読解をとおして考察する内…

『村上春樹にご用心』 内田樹

2009/3/13読了 村上春樹はなぜ世界性を獲得しえたのか、作中に食事の場面が多いのはなぜか、このような疑問にたいする著者の考えを述べつつ、村上作品の魅力を探っていく内容となっています。 著者の考えをたどると見えてくるものは、村上文学における「暗示…

『インドシナ』 レジス・ヴァルニエ

2009/3/12鑑賞(再鑑) 『トリコロール 青の愛』に続き、以前見た映画を再び見直してみました。9年ぶりの鑑賞です。やはり、9年前に見たときからの印象の違い、また自分が抱く思いの変化を強く感じます。 この映画を始めて観たときは、その前年に訪れたベ…

『写真美術館へようこそ』 飯沢耕太郎

2009/3/5読了 写真の誕生から始まり、各時代の名作をテーマごとに見ていく、という構成となっています。 このような本では、写真史の流れを覚える、というよりは、興味のある写真家や作品を見つけ、それをじっくりと味わうきっかけとする、という読み方が面…

新しいオーディオを買う

新しいオーディオを買ったので、久しぶりに以前よく聞いていたCDを流してみました。 『菲賣品』というアルバムです。 このアルバムをよく聞いていたのが2003年、アルバム自体の発売は97年であり、収録されている曲目は90年代半ばのものが中心となっていま…

『万葉の歌人たち』 岡野弘彦

2009/3/3読了 『万葉集』の成り立ちや歌人、そしておさめられた歌について解説した内容となっています。 特に、当時の歌の持っていた役割を述べた部分が印象に残っています。古代においては、歌はそのものとして歌われていたわけではなく、旅の不安を鎮める…

『クラッシュ』 ポール・ハギス

2009/3/4鑑賞 衝突し合う者たちの和解は、古典的なストーリーの枠組みだと思います。しかし、その古典的な枠組みを、人種も階級も異なる十数人もの人々に演じさせたらどうなるか、それを描いたのがこの映画になります。 まず、演出面の素晴らしさに驚かされ…

『ハワーズ・エンド』 フォースター

2009/2/28読了 この小説を紹介した池澤夏樹氏は、次のように述べています。 「違う文化を出自とする人間たちが出会い、愛し合うようになる。しかし人と人の間で文化は衝突し、愛は苦戦を強いられる。」 作品では、知識階級のシュレーゲル家の人々、実務家の…

『トリコロール/青の愛』 クシシュトフ・キエシロフスキー

2009/2/25鑑賞 前回この映画を観たのが1999年、じつに10年ぶりに見直したことになります。今回見直してみて、覚えている部分は主人公が通うスポーツクラブのプールの場面だけでした。当時の私にとって、この映画のインパクトはそれほど小さかったのだと思い…

『悪の華』 シャルル・ボードレール

近代都市のおける頽廃や叛逆の情熱を描いたものとして著名な作品ですが、現在の視点から読むとそれほどショッキングな内容とは感じられません。それは、あるいはこのような内容を当然のものとしてしまうほど、ボードレールの影響は大きかったことの証左と考…

『パーソンズ 医療社会学の構想』 高城和義

2009/2/22読了 パーソンズの基礎的な理論を説明しながら、その理論をもとに医療社会学の展望を考えていく内容となっています。 理論については「行為理論・役割概念」(51)「逸脱モデル」(70)「パターン変数」(90)「AGIL図式」(137)等、彼の主だった枠組みが…