『ねじまき鳥クロニクル』 村上春樹

2009/5/22読了

「あなたはよそで作られたものなのよ。そして自分をつくりかえようとするあなたのつもりだって、それもやはりどこかよそで作られたものなの。〜それがわからないというのは、たしかに大きな問題だと思うな。だからきっとあなたは今、そのことで仕返しされているのよ。いろんなものから。たとえばあなたが捨てちゃおうとした世界から、たとえばあなたが捨てちゃおうと思ったあなた自身から。」(予言する鳥編 169)

「彼女はそうすることによって、ある意味で私の回復を助けていたのです。いろんな人々の意識なり自我なりを私に通過させることによって、私が自分というものを獲得することが可能になると、姉は考えていたのだと思います。〜それはいわば自我の疑似体験のようなものなのです。」(予言する鳥編 256)

自分が二人のために死んで行くところを、獣医は何度も何度も想像したものだった。それはひどく甘美な死に方であるように彼には思えた。しかしそれと同時に獣医は、一日の仕事から戻ってきて家の中に妻と娘の姿を目にするとき、これらの人間は結局のところ自分とはつながりを持たない別個の存在なのだと感じることがあった。〜そんなとき、結局のところこの女たちもやはり俺が選んだものではないのだと獣医は思った。しかしそれにもかかわらず彼はこの二人を、何の留保もなく条件もなく強く愛していた。〜それは彼の人生に仕掛けられた巨大な罠みたいに思えた。(鳥刺し男編 320)

「人は真実を伝えるためにメッセージを送っているとはかぎらないわ、岡田さん。〜人が本当の姿を見せるために誰かに会うとは限らないのと同じようにね。私の言っていることはわかるかしら?」
「でもクミコはとにかく何かを僕に伝えようとしていた。それが真実であるにせよないにせよ、何かを訴えようとしていた。それが僕にとっての真実だ」(鳥刺し男編 457)

ねじまき鳥クロニクル〈第2部〉予言する鳥編 (新潮文庫)

ねじまき鳥クロニクル〈第2部〉予言する鳥編 (新潮文庫)

ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編 (新潮文庫)

ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編 (新潮文庫)