2009-01-01から1年間の記事一覧

『フルメタル・ジャケット』 スタンリー・キューブリック

2009/2/16鑑賞 映画は前半と後半に分かれています。 前半の舞台は海兵訓練基地であり、使い物にならなかった太った候補性が、戦闘マシーンの様に変貌していく描写が中心となっています。一見狂気を描いているようにも見えますが、彼以外の候補性は思いのほか…

『アーキテクチャの生態系』 濱野智史

2009/2/14読了 ゼロ年代の日本におけるwebサービスを、「アーキテクチュア」をキーワードとして、生物学的観点から分析した内容となっています。 筆者は、日本でのwebサービスが、同様のシステムをもつアメリカとものと比べ違った利用のされ方をしている、あ…

『嵐が丘』 ジャック・リヴェット

2009/2/14鑑賞 エミリー・ブロンテの原作を、舞台を南仏に移し、映像化しています。 ギヨームやオリヴィエのロックに対する嫉妬、イザベルのカトリーヌに対する嫉妬や、ロックの執念深さなどが強調されており、かなりドロドロとした雰囲気の作品となっていま…

『赤ひげ』 黒澤明

2009/2/11鑑賞 江戸時代の東京を舞台に、施療院の医師である「赤ひげ」と、その周囲の人間たちの様子を描いています。物語全体を通して、主人公である「赤ひげ」よりも、長崎帰りの保本や岡場所の少女の成長にスポットが当てられているように見えます。人の…

ロリータ/キューブリック

2009/2/5鑑賞 以前、エイドリアン・ライン監督の『ロリータ』を見たことがあったため、それと比較しながらの鑑賞となりました。 (ライン版の日記:http://d.hatena.ne.jp/kaoru4/20070728/1185626940) ライン版で非常に印象に残った「夢のアメリカ」の描写…

戦争の悲しみ/バオ・ニン

2009/1/25読了 読み進めながら、以前訪れたヴェトナムのことを考えていました。私がヴェトナムを訪れたのは1999年と2003年で、それぞれ2週間程度の滞在でした。この作品からは、その時ヴェトナムに対して抱いた「荒々しさ」と「都市の停滞感」という2つの印…

やかまし村の春・夏・秋・冬/ラッセ・ハルストレム

2009/1/31鑑賞 『やかまし村の子どもたち』同様、田園の風景の中、6人の子供たちの様子が描かれますが、今回は物語の期間も長く、四季の移り変わりや彼らの成長にもスポットが当てられています。 初雪が降った朝や、鉛占いをしながら待つ新年の訪れ、また、…

プレーンソング/保坂和志

2009/1/29読了 大きな出来事は起こらず、主人公の日常で起こること、その時の主人公の「意識の流れ」を描いていると思います。ただ、それをこの小説が発表された一九九〇の言葉で、その空気の中で描いたことに、この小説の特徴があると思います。 作者は別の…

ホテル・ルワンダ/テリー・ジョージ

この映画の様に、圧倒的な善を見せてくれる作品に関しては、あまり批判めいたことはしたくないと考えてしまいます。 ただ、終始気になったのが、あくまで白人からみたルワンダの物語が描かれている点です。彼ら彼見ればルワンダの紛争は「民族紛争」ではなく…

中国行きのスロウ・ボート/村上春樹

1980年から82年にかけて執筆された7つの短編が収められています。 『貧乏な叔母さんの話』『カンガルー通信』『午後の最後の芝生』では、強い望みを持たない、あるいは明らかに非現実的で意味がない望みを持った主人公が、居心地の悪い状態を押し付けられて…

バスを待ちながら/フアン・カルロス・タビオ

ストーリーとしては、夢オチを採用するなど荒削りなところがあり、登場人物の性格設定や行動に関しても、やや稚拙な印象を受けました。テレビドラマ的な映画といってもいいかもしれません。 ただ、そのような現代的な物語が、前近代的なキューバ社会の中に置…

アンドリュー・ワイエス―創造への道程(みち)―/愛知県美術館

先日亡くなったこの画家は、生涯にわたりペンシルヴァニア州とメイン州の二つの場所を描き続けていたそうです。 今回、まとまった作品展を初めて見ましたが、自分の幼少時代を思い起こさせるような作品が非常に多く展示されていました。それは、これらの作品…

旅する力/沢木耕太郎

「深夜特急」の旅や、それにまつわるエピソードが書かれた内容となっています。 氏の他の作品やエッセイですでにふれた話が多かったため、これまでの氏の作品に比べ、読後の印象は薄いものでした。しかし、「深夜特急」の旅から東京に戻った時の次の印象には…

博士の異常な愛情/キューブリック

作品自体は比較的シンプルで分かりやすく、素直に楽しめました。ただこの映画も『2001年宇宙の旅』同様に、さまざまな仕掛けが隠されており、そこから独自のメッセージを読み取ることができる作品なのでしょう。 傑作と呼ばれるこの作品の本来の楽しみは…

未来派左翼/アントニオ・ネグリ

近年の時代を象徴する出来事をもとに、ネグリの考え方が述べられていますが、その根幹となるのは「伝統的左翼批判」と「<共>の思想」です。この二つを基盤として、氏の思想が変奏されています。 たとえば、運動に対する氏の考えは次のようになります。 運…

海辺のポーリーヌ/エリック・ロメール

エリック・ロメール監督の<喜劇と格言劇>シリーズ第3作。 淡々とした中にもストーリーに起伏があり、洗練されているけれどもどこか素朴な印象もある、不思議な魅力を持った作品です。 映画自体も良かったのですが、25年前の作品が、これほどまでに(悪い…

ダンス・ダンス・ダンス/村上春樹

この物語は、主人公の次のような社会認識と自己認識から始まります。 当時はそうは思わなかったけれど、一九六九年にはまだ世界は単純だった。機動隊員に石を投げるというだけのことで、ある場合には人は自己表明を果たすことができた。それなりに良い時代だ…