キャラクターズ/東浩紀 桜坂洋

2008/9/16-10/2
小説の形をとっているが、その中で作者たちの虚構や小説に関する考えが述べられている。
・世の中は変化しているように見えるが、そのシステムは案外強固で、たとえば若い作家たちは「変化しない世の中」に照準を合わせて賞を得ている。あるいはこれは、形式美のようなものなのかもしれない。(23-24)
・作家が「私」を書く小説だけが文学ではない。むしろ作家=「私」が保証されない方が小説は豊かで面白いことを証明したい。(それを小説世界で表現するため、Iは私小説の、Sはキャラクター小説の比喩として描かれている)(36,96)
・近代以降の日本文学は虚構にリアリティーを持たせるために、作品中に「私」を投入したが、近代が終わった今となっては、虚構は虚構でしかないという意識こそが問題ではないか。現実の社会は小説に興味を失い、小説は現実の社会から遊離して「私」に閉じこもる。そして虚構の言葉達は力を失い続けていく。しかし、この種の循環構造は打破しなければならない。(116-118)
・「ぼくたち(キャラクターたち)はコミュニケーションの不完全性が生み出した幽霊だ。幽霊は作者とテクストのあいだだけでなく、テクストと読者のあいだにも、また読者と読者のあいだにも宿る。だからキャラクターたちは、現実のだれにも託していない手紙、現実のだれにも届けられない手紙、現実のだれにも届かないかもしれない手紙をみな抱えている。Sはそれを遺言と呼んだ。
キャラクターが、現実の手が決して届かない場所で隠し持つ誤配のメッセージ、それこそが文学の魔法の力だ。」(142)