埴谷雄高独白「死霊」の世界

ETV特集で放送された埴谷氏のインタビューをまとめた内容となっています。氏の生い立ちや、家族のこと、活動のことなどが話されますが、話題の中心は、やはり『死霊』、そしてその中心となる概念である「虚体」「未出現宇宙」です。
これらの概念について、氏は次のように説明しています。

「虚体」というものは、現宇宙を超えたものです。実体というのは、いま言ったA=Aから出発し、できるものが実体なんですよ。自同律によって支えられている世界が実体であり、われわれの科学も、われわれの文学も、一応そのうえに成り立っているわけですよ。それを自同律でない――自同律の不快ということは、その自同律でない世界をつくろうというわけですね。(100)

小説の言葉というものは、自同律に支えられた世界のものであり、それで「虚体」を示すことは困難ですが、逆にドストエフスキーを例にとり、小説だからこそそのような表現も可能であることも示しています。
また、この小説で最終的に目指されていることは、存在の革命であるということも話しています。フランス革命のような社会革命ではない、「実体」の反対の、このようになりたいと思ったけれどなれなかったものになるということ、その概念を読者に納得させるほどのものが書きたいを、氏は述べています。

埴谷雄高・独白「死霊」の世界

埴谷雄高・独白「死霊」の世界