聖家族/古川日出男

東北を舞台に、ある一族のさまざまな人物を中心にした、近代・現代が語られます。その語りの中で、作者は、正史・偽史のゆらぎや現代の歴史化を試しみているように思えます。
たとえば、『「見えない大学」付属図書館』では、「記録に合わせて現実を修正する」こと狗塚真大の職務となっており、現実の歴史に羅刹や天狗が忍び寄る様子が描かれています。
また、『地獄の図書館』では、現代の白石や郡山が、擬似歴史的な視点から、サブカルチャー的に描かれている印象を受けました。
新聞や雑誌でこの本の書評を見たとき、「正史から抹消された裏面史としての東北」のようなことが書いてありました。最後まで読みとおすことができなかったこともあり、そのようなテーマ性を強く感じることはできませんでしたが、一方で近代の小説にはない独特の手法がとられていることも分かります。そのため、人によって多様な「読み」が実践できる小説であり、その点は今後書評などで見ていきたいと思います。

聖家族

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