好き好き大好き超愛してる。/舞城王太郎

2007/11/10-11/17
「「私も治のことが好きだった」と柿緒は言って、僕も、そして柿緒も、それが過去形で言われたことにすぐ気付く。その気付きは稲光みたいに僕と柿緒のその瞬間を照らす。
僕は「どうして過去形なんだよ」と軽くツッコみたかった。でもここでこのときこんな台詞を軽く言うことなんて無理だった。どんな言葉も出てこなかった。柿緒も訂正なんてしなかった。それもそうなのだ。それはもう言葉としてきっと間違いではないのだ。それはもうすでに過去のことなのだ。僕と柿緒の《恋愛》は。
もちろん言うまでもなく柿緒が今はもう僕のことを好きではなくなったということではない。僕達の《恋愛》が過去になったのは、《柿緒》が過去のものになったからだ。
死はこんなふうに始まるんだ、と僕と柿緒は知る。」(159-160)
「こういうのはどうだろう?僕はたしかに小説に書いておきたいと思った。でも僕はそれをそのままの形で日記みたいに書きつけたいと思っているわけではない。それでは僕が書く場合小説にはならない。僕は本当に起こったことは書かない。僕が書くのは起こりえたはずなのに起こらなかったことかそもそも起こりえなかったからやはり起こらなかったことだけだ。そういうことを書きながら、実際に起こったことや自分の言いたいことをどこかで部分的にでも表現できたらと思っている……というより願ってる。だからやはり賞太は間違っている。僕が見たものは僕が書かないものなのだ。柿緒の死はそれが実際に起こったようには書かない。」(163)