中央フリーウェイ

『中央フリーウェイ』という曲とともに思いおこされる、高校時代の記憶がある。
当時の私は、朝六時頃に朝食をたべながら、情報番組をみる習慣があった。ちょうどその時間には、首都圏の交通情報が放送されており、荒井由実の『中央フリーウェイ』をBGMに、都内とその近郊の道路情報が流れていた。
地方に住んでいた私にとって、そこで見る首都圏の地図や固有名詞は、将来住むことになるであろう東京という大都市への憧れを抱かせるものであった。それと同時に、『中央フリーウェイ』のノスタルジックなメロディーは、過去への憧憬を感じさせてくれ、朝のひとときに小さな落ち着きをもたらしてくれた。
今思い返してみても、特にかわったことがあるわけでもない、何気ない時間だったと思う。しかしその時間は、未来への憧れと、過去への憧憬という二つの時間のベクトルが交錯する、そんな一瞬だった。
魔女の宅急便』で、キキが港町コリコに向かう場面で流れる曲は、もともと『ルージュの伝言』ではなく『中央フリーウェイ』が予定されていたという。この場面は、まだ見ぬ都会へのキキの憧れを描くとともに、そのような時代があったであろう観衆たちに、自らの過去を思いおこさせてくれる。『中央フリーウェイ』はそのような二つの時間への憧れを抱かせるのに相応しい魔力を持った曲である。