『ムーラン・ド・ラ・ガレット』

ルノワールの代表作に『ムーラン・ド・ラ・ガレット』がある。中学校の美術の教科書で見て以来、この絵は私のもっとも好きな絵であり続けた。そして、この絵に対する関心がなくなったとき、それは外国に対する憧れがなくなった時期でもあった。
思い出せば、私が外国に対してもっとも純粋な憧れを持っていた時期は、14歳の頃であった。当時、実家から近い地方都市には、ヨーロッパの町並みを模した路地があったが、私はその場所で極めて単純に、外国の町並みを想像することができた。ラジオ番組で「スペイン坂」という名前を聞けば、簡単にスペインの小さな通りを思い浮かべることができた。それは、ある意味で幸せな時期であった。
大学入学後は、年に一度ほど海外旅行する機会に恵まれた。そして、旅先を「征服」していくたびに、外国への憧れは小さなものとなっていった。それとともに、徐々にルノワールの絵に対する関心もなくなっていった。大学最後の年に長い旅行から帰ったとき、その絵は完全に過去のものとなった。
常に「憧れ」は抱きつづけていたいが、その感情は「諦念」に代わりつつある。しかし、かつて好きだった絵を見て、当時の感情を思い出すことはできる。そしてそれを表現してみること、それが私の中に憧れを生きつづけさせる、ひとつの解決策となるであろう。