音楽

新ヴィーン楽派を聴いて

ここ数か月間、シェーンベルク、ベルク、ヴェーベルンといった、いわゆる「新ウィーン楽派」の音楽を聴いていた。 ごく簡単に印象を言えば、シェーンベルクは無調以前の「浄夜」はもちろんのこと、無調以降の音楽も耽美的で比較的たのしめる。ベルクは、劇的…

モーツァルトと二人の批評家 4/4

小林秀雄氏のモオツァルト論は、確かに格好いい。こんな切れ味の良いクラシック評論は、なかなかお目にかかれるものではない。 だが、同時に、モーツァルトとは、そのような重厚な論じ方をされるべき作曲家なのだろうかとも思うのだ。その音楽は、もう少し軽…

モーツァルトと二人の批評家 3/4

楽理の知識と、豊かな文学的教養に基づいた吉田秀和氏のモーツァルト論。それに比べて、小林秀雄氏のモーツァルト理解は、一面的なのだろうか? 昭和二十一年に発表された、小林氏の代表作『モオツァルト』を読み直してみる。ケレン味溢れる言い回しのなかで…

モーツァルトと二人の批評家 2/4

では、吉田氏の好んだモーツァルトの作品は、どのようなものだったのか?先の評論を読めば、氏の趣味が良く理解できる。 たとえば、「モーツァルト的」と言えるような響きをもつ、ピアノ・ソナタ十三番と十五番(旧十八番)。十三番は、ギャラント・スタイル…

モーツァルトと二人の批評家 1/4

疾走する悲しみ。モーツァルトの音楽を表現するために、小林秀雄氏が使用した言葉は、あまりに人口に膾炙している。しかし、モーツァルトの作品世界は、このひとつの言葉に集約するには、あまりに多様性を帯びているだろう。 吉田秀和氏は、音楽評論を書くよ…

ショスタコーヴィチの交響曲

マーラー以後、もっとも偉大な交響曲作曲家の一人に数えられるショスタコーヴィチ。その作品の中では、印象的なな最終楽章があり、演奏機会の多い第5番や、「レニングラード」という通称をもつ第7番が有名であり、この二曲がそのまま作曲家の一般的なイメー…

バルトークのモダニズム

バルトークといえば民族音楽。生涯にわたり東欧の民謡を収集し、それを自作のなかに取り入れた、という彼の経歴をみれば、そのようなイメージで語られる作曲家ということになるだろう。ポピュラーな「6つのルーマニア民族舞曲」を聴けば、その素朴で楽しい…

モーツアルトのピアノソナタ

フリードリヒ・グルダ そういう軽く明るい音に加えるのに、グルダは、非の打ちどころのない技術の卓越の上に、非常によく流れるが、控え目でインティメントな音楽を作る。これは、告白型または激情型のダイナミズムとは違い、羞恥に満ちたといってもよいくら…

ファリャ −「クラシック音楽化」されたスペイン−

ファリャのバレエ音楽『三角帽子』『恋は魔術師』を聴いた。明るい空、怪しげな夜、叙情...。その音楽は誰が聞いたとしても、スペインの色彩を感じるだろう。 この作曲家はスペインで生まれ育ったのち、パリに出てドビュッシーやラヴェルの音楽を学んだ。…

モーツァルト 交響曲第三十九番 変ホ長調

モーツァルトを聴いていると、アンビヴァレントな感覚に襲われることがある。明るさのなかの不安、幸福感のなかの危うさ。 ピエール・モントゥー指揮のモーツァルトが、一枚のCDに収められてある。作品は第三十五番(ハフナー)と第三十九番。堂々としたハ…

ラヴェル −捏造されるノスタルジア−

『ソナチネ』『ハイドンの名によるメヌエット』『マ・メール・ロワ』・・・。綺麗で、ふしぎで、儚げなラヴェルのピアノ曲。 この作品たちと共に過ごしている時間、自分の思いは現実から飛翔し、過去へとさかのぼる。明るく、おだやかだった、幼少時代。小さ…

サティ ノクテュルヌ(高橋悠治)

エリック・サティとの出会いは、今でもはっきりと覚えている。20年前の3月、小野田英一氏が司会をしていたTOKYO FM「JET STREAM」で『ジュ・トゥ・ヴゥ』が流れたときだった。ラジオを聴いていると、時々「これだ」と感じる音楽がある。当時…

マーラー 交響曲第九番(バーンスタイン)

マーラーの生前最後の完成作品となる第九番。最高傑作とも言われ、オーケストラの何らかの節目や、記念的な行事の際の演奏曲目となることも多いという。 第一楽章は、アダージョから始まる。過去の自作や多作がコラージュのように織り込まれていると解説され…

マーラー 大地の歌(バーンスタイン)

マーラーは、その作曲家人生の中で、何度かの「変身」を行っている。『大地の歌』は、最後の変身を行った後の音楽。いわば、最終形態となったマーラーが作り上げた音楽といえるだろう。 異国の文化が怒涛のように流れこんでいた二〇世紀初頭の欧州。以前より…

マーラー 交響曲第七番(バーンスタイン)

マーラーの七番目の交響曲。この作品の第一印象は「よく分からない」といったものでした。副題に「夜の音楽」とあるとおり、夜の情景を描いていることは分かる。しかし、各楽章のつながりは感じられない。曲のストーリーが見えてこない。そして、あの異様な…

マーラー 交響曲第六番(バーンスタイン)

今年の春から、マーラーの交響曲を全作品聴く計画を立て、先週第十番まで聞き終わりました。今週からは、過去の作品の聞き直しを始めています。 今回は第六番を聞き直しました。 印象的なのは後半の二つの楽章。第三楽章では、木管楽器を使った五音音階的で…

マーラー 交響曲第五番(バーンスタイン)

マーラーの交響曲の中でも、最も人気のある五番。私が唯一コンサートホールで聴いた、この作曲家の作品でもあります。 その時の目的は、有名なアダージェット。ただ、生で聴くのを非常に楽しみにしていたにもかかわらず、作品を聴き終わり高揚感を得るような…

マーラー 交響曲第三番(バーンスタイン)

2年近くに渡ったロマン派の作品鑑賞が終わり、今年の春からはマーラーの作品を聴いています。そして、20世紀になって全曲初演されたこの作品になって初めて、自分が持つイメージ通りのマーラー像が現れてきたような気がします。 交響曲第一番は、19世紀…

ムラヴィンスキーのチャイコフスキー(交響曲第六番)

ブラームスの第四番とともに、ロマン派の最後をかざる最高傑作。第一楽章のコーダを聴けば、誰しもチャイコフスキーの達観を感じるだろう。 しかし、この作品が発表された「時代」を考えてみると、また違った印象を覚える。 チャイコフスキーの最後の交響曲…

ムラヴィンスキーのチャイコフスキー(交響曲第五番)

この交響曲の魅力を一言でいえば、「中庸」ということになるだろうか。個性が強い四番や六番に比べ、落ち着いたところのある五番。ただし、演奏会で取り上げられる頻度が決して低くはないことからも分かるとおり、決して地味だったり、印象のうすい作品では…

ムラヴィンスキーのチャイコフスキー(交響曲第四番)

チャイコフスキーの傑作群となる、後期三部作の1作目。今までは第三番まではバーンスタイン版で聴いてきたが、ここからはムラヴィンスキー版で鑑賞。 傑作と呼ばれる作品だけあって、前作までとくらべ、オーケストレーションの洗練度はぐっと増した印象。ま…

バーンスタインのチャイコフスキー (交響曲第一〜三番)

冬から春の初めにかけて、チャイコフスキーの前期交響曲を鑑賞した。後期の作品群に比べ、民族的な、ロシアの冷氷な大地を思わせる旋律が多く、この季節にぴったり。 それまで聞いてきたドイツ系作曲家の作品に比べ、ロシアの作曲家の音楽は親しみやすいメロ…

バーンスタインのブラームス(交響曲第四番)

この作品について、金聖響は次の評価を下している。 まさに、ひとつの時代――ベートーヴェンが切り拓いたロマン主義への道を、多くの作曲家がベートーヴェンを意識しながら歩んだ時代――の終焉を告げるにふさわしい大曲だと思います。(『ロマン派の交響曲』よ…

バーンスタインのブラームス(交響曲第三番)

F-As-Fの導入の和音から導き出される、堂々とした中にある憂い。この屈折した感情が、作品全体を支配している。 第二楽章はノスタルジー、第三楽章は憂愁の音楽。それは、旋律だけでなく音色からも聴き取ることができ、ブラームスの楽器の使い方のうまさを味…

バーンスタインのブラームス(交響曲第二番)

ブラームスの田園ともいわれる第二交響曲。確かに、彼がこの作品をつくり上げたと言われるペルチャッハのおだやかな自然が浮かび上がるようである。曲はしばらく表題音楽的に進み、ときに曇りだした空や長い夕ぐれのような旋律が現れる。 作曲技法的には、第…

バーンスタインのブラームス(交響曲第一番)

交響曲不毛の30年の後、ブラームスが26年かけて作り上げたというこの曲。以前の交響曲では見られなかった和声が頻繁にあらわれることで、堂々とした中にもやわらかい音楽が感じられる。 また、いわゆる循環構造を意識して聴けば、全曲のキーとなるC、Cis、D…

ゼルキンのショパン(ピアノ作品集)

数か月づいたショパン・シリーズも、このCDが最後。 今までの「全集」ものとは違い、「ワルツ」「夜想曲」「マズルカ」など様々なジャンルから、演奏者によって曲が組み合わせられた構成となっている。その意味で、これまで聞いてきた曲集とは毛色が違ってい…

ツィマーマンのショパン(ピアノ協奏曲第1番、第2番)

ツィマーマンが自らポーランド祝祭管弦楽団を組織し、録音した作品。1999年の録音というから、クラシック音楽の「名盤」と言われるものの中では、かなり新しい部類に入るだろう。 私自身はショパンの協奏曲にはほとんど触れたことはない。それでも、一聴し、…

ツィマーマンのショパン(バラード、舟歌、幻想曲)

バラードは、数多くあるショパンの作品の中では、比較的マイナーなものとなるかもしれない。 ライナーノーツによれば、「バラードはショパンが創作した形式であり、「自由な形式の叙事詩」という文芸上のバラードの特徴を、ピアノ音楽に結実させたもの」との…

アシュケナージのショパン(夜想曲全集)

まさに「丁寧」という言葉がぴったりの、アシュケナージによるノクターン。感傷的に陥ることなく、むしろ理知的に、一音一音を大切に響かせ、音そのものに思想を持たせているかのような演奏。 それにより、<第二番>のようなきわめて通俗的な作品ですら、生…