ムラヴィンスキーのチャイコフスキー(交響曲第五番)

この交響曲の魅力を一言でいえば、「中庸」ということになるだろうか。個性が強い四番や六番に比べ、落ち着いたところのある五番。ただし、演奏会で取り上げられる頻度が決して低くはないことからも分かるとおり、決して地味だったり、印象のうすい作品ではない。
作品の魅力のひとつは、わかりやすい構成である。第一楽章が暗いホ短調。最終楽章は、第一楽章の旋律を長調にした輝かしいホ長調
その間に挟まれた楽章も、二楽章のやさしいアダージョ、三楽章のワルツなど、特徴的な音楽が使われ、それぞれの楽章はチャイコフスキーらしいメロディーの美しさに彩られている。
そのため、それぞれの楽章自体が一つの作品として優れており、さらに全体が分かりやすい形で統合されているのが、この第五番と言えるだろう。
それでいて、ライナーノーツの言葉を借りれば、この作品には「新鮮な楽想、巧みな色彩表現」がある。旋律やオーケストレーションの巧みさと言いかえてみいいかもしれないが、例えば三楽章、四楽章のさわやかさ、疾走感にそれを感じることができるだろう。また、二楽章、四楽章では、再現部が導入部と異なる楽器使いで個性を出しており、聴くものを飽きさせない。
それらの作曲家の職人芸が感じられるところも、「中庸」であるこの作品の、人気の秘密かもしれない。