2017-01-01から1年間の記事一覧

『都心ノ病院ニテ幻覚ヲ見タルコト』 澁澤龍彦 2/2

著者の最後のエッセイ集らしく、この本には追悼文も多い。以下に引用するのは、全て亡くなった方への思い出を綴ったものである。 回想の足穂 足穂の飛行機好きは有名だが、足穂の飛行機がかならず飛ばない飛行機、あるいは落っこちなければいけない飛行機で…

『都心ノ病院ニテ幻覚ヲ見タルコト』 澁澤龍彦 1/2

二〇代の頃、よく渋澤さんのエッセイを読んでは、その文体から醸し出される軽い浮遊感を楽しんでいた。思えば、著者の本を買うのは久しぶりだが、読んでみれば、少しの懐かしさを感じるとともに、時折はっとさせられる一文にも出逢う。 晩年にさまざまな媒体…

『魔法の世紀』 落合陽一 2/2

あえて露骨な表現を用いること ボルタンスキーは、昨年の「瀬戸内トリエンナーレ」で最も印象に残った芸術家だった。その理由は、作品から感じられる思想ももちろんなのだが、何よりも、作品の規模の大きさ、完成への手間のかけかたにあることは否定できない…

『魔法の世紀』 落合陽一 1/2

定期的に読んでいるブロマガに記事を投稿している、「現代の魔法使い」こと落合陽一氏のこの本。最近、ふと知人が著者の名前を口にし、同じような興味をもつ人は、意外と身近なところにいるのもだな、と小さな驚きをおぼえた。 その会話をきっかけに、この本…

四月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 4/8 『白い恐怖』 アルフレッド・ヒッチコック 4/12 『ドラえもん のび太と鉄人兵団』 芝山努 『魔法の世紀』 落合陽一 4/14 『ドラえもん のび太の恐竜2006』 渡辺歩 4/18 『ハムレット』 ローレンス・オリヴィエ 4/20 『ドラ…

『明恵 夢を生きる』 河合隼雄 2/2

性衝動の問題 ユングは当初フロイトと共同で研究を行っていたが、あらゆる夢の内容を「性」に結びつけるフロイトの思想の嫌気がさし、別の道を歩むこととなった。しかし、下記のような記述を読めば、ユングにとっても、性衝動の問題は思いのほか大きかったこ…

『明恵 夢を生きる』 河合隼雄 1/2

夢とは何か 生涯にわたって夢日記を書き続けたという明恵上人。その夢を、ユング心理学を使って分析する。 主たる内容は、上人の見た夢を、若年のことから晩年にわたって分析し、その成長と思想をつづるというもの。とくに、ユング=著者が「夢」をどのよう…

『昔話の深層 ユング心理学とグリム童話』 河合隼雄 2/2

「自我」と「自己」 ユングは自我と自己の相互作用の必要性を強調する。人間の心の中心があまりにも自我に偏ってしまうと、それは根のない浅薄な合理主義に堕してしまう。さりとて、自我の存在を忘れてしまうと、その非日常性があまりに強いために、現実と遊…

『昔話の深層 ユング心理学とグリム童話』 河合隼雄 1/2

心の退行 貧乏や飢饉という物質的な欠如性は、心の内部のこととして見れば、心的エネルギーの欠如を示すものと考えられる。人間の自我は、その活動にふさわしい心的エネルギーを必要とする。ところが、その心的エネルギーが自我から無意識へと流れ、自我が利…

三月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 3/4 『アナと雪の女王』 クリス・バック、ジェニファー・リー 3/5 お水取り/奈良国立博物館 3/6 『断崖』 アルフレッド・ヒッチコック 3/12 『昔話の深層』 河合隼雄 3/26 『明恵 夢を生きる』 河合隼雄

バルトークのモダニズム

バルトークといえば民族音楽。生涯にわたり東欧の民謡を収集し、それを自作のなかに取り入れた、という彼の経歴をみれば、そのようなイメージで語られる作曲家ということになるだろう。ポピュラーな「6つのルーマニア民族舞曲」を聴けば、その素朴で楽しい…

二月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 2/11 『奇子』 手塚治虫 2/25 永青文庫 日本画の名品/名古屋市美術館 上村松園『月影』、木村武山『祇王祇女』秋草・シースルー 鏑木清方『花吹雪・落葉時雨』、松岡映丘『室君』

中世のしぶとい生命力 ―『中世の秋1』ホイジンガ 6/6

この巻の終わりは、中世末期の宗教に関する考察となっている。「日常生活をおおう宗教」という視点で、当時の様相を描いているのだが、意外にも現代に通じる事柄が多い。 例えば、中世できわめて世俗化、日常化していた、聖者崇拝に対する論評。 宗教を、つ…

形式が成熟すれば「遊び」となる ―『中世の秋1』ホイジンガ 5/6

ホイジンガは、人間性の本質として「遊び」の重要性を指摘した人である。その「遊び」とは、騎士道や恋愛術のような形式の成熟の果てに、立ちあらわれるものなのだ。 おおよそ終末の時代には、上流階層の文化生活は、ほとんどまんべんなく遊びと化してしまう…

様式としての「騎士道」と「恋愛」 ―『中世の秋1』ホイジンガ 4/6

このように、社会全体を覆っていた「形式」であるが、その最たるものが「騎士道」そして「恋愛」である。 たとえば、「騎士道」と王権の関係について。 ブルゴーニュ侯国は、その理念として、つねに騎士道理想の衣を身にまとっていた。歴代ブルゴーニュ候の…

理想と現実の、すさまじい断絶 ―『中世の秋1』ホイジンガ 3/6

中世末期という時代に関して、とくに著者が主張しているのは、中世が形式やメンツを重んじた時代であること、そして、それと現実との間には断絶があったこと。 中世末期の文化は、まさしく、この視覚のうちにとらえられるべき文化なのである。理想の形態に飾…

はげしく、あらあらしい時代 ―『中世の秋1』ホイジンガ 2/6

著者は、中世末期はどのような時代だったか、というところから話を始める。「はげしい生活の基調」と名づけられた章題のとおり、そこには、あらあらしく、いくぶん単純化されたような時代の様相がかいま見られる。 中世人の行動や、残された芸術の背後に、ま…

美しい書名に惹かれて ―『中世の秋1』ホイジンガ 1/6

『中世の秋』という美しいタイトルともつこの本。その名前から興味を持ち、何年も前から読みたいと考えていた。 ただ、書評や読者レビューを見ても、何について書かれた本なのかいまいち分からない。そのため、予備知識もなく読みだしたのだが、なかなか面白…

歩きながら、ときどき立ち止まりながら考えること −『ナマコの眼』鶴見良行 6/6 

もう一つ、この本でつよく感じたことがある。それは、ひとつのテーマを深く、深く掘り進めていくと、そこには見たこともない、とても豊かな世界が開けているということ。世界のウラ側に抜けられる、という表現でもいいかもしれない。 「太陽と星くず」と題さ…

南スラウェシの記憶 −『ナマコの眼』鶴見良行 5/6 

ナマコという具体的なモノについて書かれている内容だけあって、この本にはたくさんの地名や人名が出てくる。その為か、読んでいて旅しているような、人のおはなしを聞いているような感覚をあじわうこともできた。 特に著者が何度も言及するスラウェシ島や紀…

一月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 1/7 『ナマコの眼』 鶴見良行 1/16 『星三百六十五夜(下)』 野尻抱影 1/28 『汚名』 アルフレッド・ヒッチコック 1/29 『フローラ逍遥』 澁澤龍彦 『中世の秋』 ホイジンガ

小さなモノから歴史を掘りおこす −『ナマコの眼』鶴見良行 4/6 

ナマコのような、一見たわいもないものは、せいぜい小さな貿易業者が、細々と商っていたものと思われがちである。だが、その流れを丹念に追って行けば、今まで見えていなかった、歴史や地理の事実を掘り起こすこともできる。 著者は、江戸時代の輸出品として…

海洋から大地を見る −『ナマコの眼』鶴見良行 3/6

国家単位でモノを考えなければ、私たちの視点は、次第に大地から海へと移っていく。国は土地を支配できるが、海洋は支配できないからだ。 そして、海洋に視点を移せば、「中継地点」としての機能を持つ場所の役割が大きくなる。たとえば、フィリピンのマニラ…

国家ではなくヒトから世界を見る −『ナマコの眼』鶴見良行 2/6

鶴見氏がもっとも強く主張していること、それは国単位でものを見ること、中央からものを見ることへの批判である。 国家を単位として歴史を記述できるのは、ごく限られた時代と土地にしかすぎない。それに歴史家たちは英雄に光を当てて記述しているから、歴史…

ハノイの古書店にて −『ナマコの眼』鶴見良行 1/6

この本との出会いは、今から14年前、ハノイの古書店においてであった。そのころ私は東南アジアを二ヵ月ほど周遊しており、移動時間に読む本を買うため、その店に入ったのだった。 店の主な客は白人の旅行客であるらしく、英語のペーパーバックが多いが、何割…