『明恵 夢を生きる』 河合隼雄 1/2

夢とは何か

 生涯にわたって夢日記を書き続けたという明恵上人。その夢を、ユング心理学を使って分析する。
 主たる内容は、上人の見た夢を、若年のことから晩年にわたって分析し、その成長と思想をつづるというもの。とくに、ユング=著者が「夢」をどのようにに捉えているか、その位置づけが印象に残った。

 ユングが夢そのものを重視する背後には、人間の無意識に対するフロイトとは異なる彼の考えが存在している。彼は人間の無意識がその自我によって抑圧された心的内容のみならず、もっとひろく深いものであると考え、それは単純にプラスとかマイナスの価値を与えられるものではなく、時としてはまったく破壊的であると共に建設的でもあり、創造の源泉であるとさえ考えた。(32)

 合理主義によって武装された自我は強力であるが、それは完成したものではなく一面的存在であることを免れ得ない。現在の自我の状態に安住することなく、つねにその成長を願うならば、現在の自我の状態に対して何かをそれにつけ加えようとし、あるいは、それに対する批判を加える存在を必要とする。そのような存在がわれわれの無意識であり、夢は無意識からのメッセージを睡眠中の自我がそれなりに意識化したものと考える。(59)

 つまりユング心理学における「自己」の表出のひとつが夢であり、それを詳しく分析することが、自らの成長にもつながる、とうのが著者の考えである。

夢と意識の関係

 さらに、著者は次のように述べる。

 このような点から考えると、夢は無意識の内容を示しているが、意識の状態とも大いに関係しているわけで、夢によってある程度、その人の意識のありようを推察できるし、意識がある水準に達しなかったら、ある種の夢は見られない、ということもできるのである。つまり、ある程度の修練や努力なしに、意味深い夢を見ることはむずかしいと言える。(40)

 創造につながる夢を見るためには、それなりの修練が必要なのだ。明恵夢日記が意義深いのは、その修練のあとが、誠実に記されたものだからでもある。