読書

『日本の橋』 保田與重郎 2/2

「日本の橋」でも、著者は知識や理屈ではなく、情感に重きを置いている。 日本の橋は材料を以て築かれたものではなく、組み立てられたものであった。原始の岩橋の歌さへ、きのふまでこゝをとび越えていった美しい若い女の思い出のために、文字の上に残された…

『日本の橋』 保田與重郎 1/2

新学社から出ている『改版 日本の橋』から「誰ヶ袖屏風」「日本の橋」を読んだ。 「誰ヶ袖屏風」では、秀吉の時代と永徳の才能によりはじまった桃山文化が、宗達に結実する様を述べる。 光悦宗達はその文様風絵画の早い先駆であった。その先駆というよりも、…

『グリーンバーグ批評選集』 4/4

現代における絵画の質とは 絵画芸術にとって削減しえないものとは、ただ二つ、平面性とその平面性の限界づけである。言い換えれば、これら発った二つの基準に従えば、絵画として経験され得る物体を創造するには充分なのだ。 今、芸術において価値もしくは質…

『グリーンバーグ批評選集』 3/4

白黒の絵画 抽象表現主義者が描いた白黒の絵画と、中国や日本の書との類似は、単なる近似現象、偶然の結果に過ぎない。西洋絵画にとって明度対比、色彩の明と暗との対立は、自らを他の絵画芸術の伝統から区別する三次元イリュージョンの主要な手段であり、そ…

『グリーンバーグ批評選集』 2/4

モダニズム絵画が目指したもの モダニズムの本質とは、ある規律そのものを批判するために、その規律に独自の方法を用いることである。それは芸術で言えば、別の芸術のミディアムと共用している効果をことごとく除去すること(=自己-批判)となる。 たとえば…

『グリーンバーグ批評選集』 1/4

アヴァンギャルドと抽象 アヴァンギャルドが「抽象」あるいは「非具象」の芸術に到達したのは、絶対の探求においてであった。……そこで芸術家が模倣しているのは神ではなくて、芸術や文学そのものの規律と過程であることが分かる。これが「抽象」の起源なので…

『近代世界システム論講義』 川北稔 2/2

・ポルトガル人がアジアに進出したころ、すでにアジア内には広域商業ネットワークがいくつか存在した。またそれらは奢侈品だけでなく、生活必需品も交易対象としており、例えば香料の完全なモノカルチャー地域となっていたバンダ諸島は、食料の外部からの補…

『近代世界システム論講義』 川北稔 1/2

ずっと興味があった「近代世界システム」という概念。時間的にウォーラーステインの著作を読むことは難しいが、川北氏によるこの解説本だけでも、ある程度の考え方は理解できる。 たとえば、米国のトランプ大統領の政策は、世界システム論的に言えば、分業体…

『ルネッサンスの光と闇 芸術と精神風土』 高階秀爾 

ルネッサンスの芸術作品を、その根底にある思想、すなわちネオ・プラトニズムとの関連から解き明かしている。ルネッサンス芸術に関しては、歴史背景や人物からその芸術作品を論じたものは多いが、ネオ・プラトニズムとの関係を扱った内容は意外と少なく、と…

『吉田秀和全集3 二十世紀の音楽』4/4

第二部は、二十世紀半ばにおける、クラシック音楽をめぐる概観とでもいうべきもの。自分が付箋をつけた個所には、以下の内容が述べられていた。 十五年後に書かれた第一部に比べ、ややポジティブな結論となっている。この十五年の間に、氏の考え方やあるいは…

『吉田秀和全集3 二十世紀の音楽』3/4

『現代音楽を考える』 これらの悲観的な視点を展開した後、吉田氏は図形楽譜やアドルノの音楽評論について意見を述べる。 「図形楽譜」 全面的セリーの音楽は、「数」の関係、数式的な思慮と関係づけられていたのに対し、図形楽譜の場合は、「ものの姿」、視…

『吉田秀和全集3 二十世紀の音楽』2/4

『現代音楽を考える』 各作曲家論か続いた後は、これを踏まえたうえでの総論が続く。ここで、吉田氏はかなりペシミスティックな論を展開する。 「近代音楽の終焉」 そこに「理性と論理」の黙殺を見ないとしても、「力と意思」への冷たい拒否を感じないのは、…

『吉田秀和全集3 二十世紀の音楽』1/4

この本は、三部分から構成されている。第一部として、昭和四十七年から四十八年まで『芸術新潮』に連載されたものをまとめた、『現代音楽を考える』。 第二部は、昭和三十二年に岩波新書の一冊として刊行された『二十世紀の音楽』。 第三部は、現代音楽につ…

こころへのセンサーを研ぎ澄ませる 『失われた時を求めて12 消え去ったアルベルチーヌ』 4/4

『失われた時を求めて』は「意識の流れ」を表現したと言われる作品だけあって、こころの動きにかかわる微妙な表現には、何度もはっとさせられる。 物語の本筋からはずれるが、次に引用するような表現は、なかなかお目にかかれるものではない。 私が自分に発…

想いの消えゆく過程を記録する 『失われた時を求めて12 消え去ったアルベルチーヌ』 3/4

ここまでであれば『消え去ったアルベルチーヌ』は、ただの恋愛心理小説の名作に過ぎないかも知れない。しかし、小説の後半、物語は別の様相を帯びる。主人公のアルベルチーヌに対する想いは消えはじめ、小説は科学の観察のように、その過程をまた三百ページ…

プルーストによる恋愛のテーゼ 『失われた時を求めて12 消え去ったアルベルチーヌ』 2/4

物語の前半では、亡きアルベルチーヌへの想いに打ちひしがれるとともに、主人公の独白を通し、「恋愛のテーゼ」というべきものが語られる。 自分がどんなことでも話すことができ、心中を打ち明けることのできる、こんな崇高な人には二度とめぐりあえないだろ…

『失われた時を求めて12 消え去ったアルベルチーヌ』 プルースト 1/4

消え去ったアルベルチーヌたちへ 『失われた時を求めて』は、二十三歳のときに半年の時間をかけて読んだ本である。当時読んだ鈴木道彦訳では「逃げ去る女」というタイトルがつけられていた第六巻、それが今回読んだ「消え去ったアルベルチーヌ」である。 こ…

十二月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 12/5 『モガンボ』 ジョン・フォード 12/9 『失われた時を求めて12 消え去ったアルベルチーヌ』 プルースト 12/12 『欲望という名の電車』 エリア・カザン 12/19 『イヴの総て』 ジョセフ・L・マンキウィッツ 12/21 アルヴ…

十月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 10/6 『百万長者と結婚する方法』 ジーン・ネグレスコ 10/13 『侏儒の言葉・西方の人』 芥川龍之介 10/21 『宝石2』 春山行夫 10/24 『血と砂』 ルーベン・マムーリアン 10/29 『もののけ姫』 宮崎駿

『少年愛の美学』 稲垣足穂

澁澤さんのエッセイによって知ったこの本。読む前は、内容や著者に対する予備知識がなかったため、タイトルから幻想的、耽美的な記述を想像していた。しかし、実際は「尻」「ヒップ」からひたすら連想が広がっていく、エロ・グロ・ナンセンスというか、お下…

九月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 9/1 『少年愛の美学』 稲垣足穂 9/10 『戦火のかなた』 ロベルト・ロッセリーニ 9/15 『ラ・ラ・ランド』 デイミアン・チャゼル 9/17 つげ義春コレクション ねじ式/夜が掴む 9/19 『神の道化師、フランチェスコ』 ロベルト・ロ…

『ひらがな日本美術史2』 橋本治 3/3

狩野正信筆「山水図」 現代の我々には、もう狩野派の絵がピンとこない。現代の我々は、「中国の山の中にいる浮世離れのした中国人の姿」を、人間のあり方の理想だとは思わないから、ここに確固として存在する″主題の明確さ″が理解出来ないのであるが、しかし…

『ひらがな日本美術史2』 橋本治 2/3

藤原豪信筆「花園天皇像」 似絵というのは、豪信の辺りで途絶えてしまった、王朝由来のリアリズムの流れなのである。「この人間の顔の描き方は肖像画としてウンヌン」などというつまらない詮索をしないで、素直に、その筆の美しさを見ればよいのだ――そうすれ…

『ひらがな日本美術史2』 橋本治 1/3

「平治物語絵巻」 優雅な王朝の時代にも″むくつけき男の欲望″はあった。それが隠されたまま存在していて、院政時代になって芽を出してくる。″戦争″とはそれである。″戦争=男の徳望″が当たり前の武士の時代になって、それを描く技術、あるいはそれを「当たり…

八月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 8/3 『無防備都市』 ロベルト・ロッセリーニ 8/11 生誕100年 いわさきちひろ、絵描きです。/東京ステーションギャラリー 8/25 『ひらがな日本美術史2』 橋本治 8/28 『ドイツ零年』 ロベルト・ロッセリーニ 8/31 至上の印象…

七月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 7/3 『スター・ウォーズ エピソードIV/新たなる希望』 ジョージ・ルーカス 7/5 『ウンベルトD』 ヴィットリオ・デ・シーカ 『プレヴェール詩集』 7/7 『歴史学の名著30』 山内昌之 『リボンの騎士』 手塚治虫 7/8 『改訂版…

『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』 河合隼雄 村上春樹 2/2

物語に対する認識のズレ 一方で、二十年も前の対談のせいか、多少古さを感じる個所もある。たとえば、当時から「本離れ」はあったが、「物語」はまだ影響力があった。今の時代は、その「物語」の影響自体が低下している。 村上氏は、物語について次のように…

『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』 河合隼雄 村上春樹 1/2

以前読んだ『ハルキ・ムラカミと言葉の音楽』で、よく引用されていたこの本。数年前から、河合隼雄氏の著作に触れることが多いため、再読してみた。 国家の歴史と個人 対談が行われたのは1995年。オウム真理教による一連の事件があったころであり、直接…

六月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 6/3 『スローなブギにしてくれ』 藤田敏八 『名画への旅(6) 春の祭典―初期ルネサンス2』 6/6 『花咲ける騎士道』 クリスチャン・ジャック 6/9 『村上春樹、河合隼雄に会いにいく 』 6/11 『湘南爆走族』 山田大樹 6/13 『…

五月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 5/19 デザインあ展 in TOYAMA/富山県美術館 5/23 『火垂るの墓』 高畑勲 5/25 『世界服飾史』 『霧の波止場』 マルセル・カルネ 5/29 『英国王のスピーチ』 トム・フーパー