美しい書名に惹かれて ―『中世の秋1』ホイジンガ 1/6

 『中世の秋』という美しいタイトルともつこの本。その名前から興味を持ち、何年も前から読みたいと考えていた。
 ただ、書評や読者レビューを見ても、何について書かれた本なのかいまいち分からない。そのため、予備知識もなく読みだしたのだが、なかなか面白い。中世末期の、フランスやブルゴーニュ地域の精神史といった内容なのだが、特定の時代・地域を扱っているにもかかわらず、それが普遍的な人間への洞察につながっている。そのため、かつて『オンリー・イエスタディ』を読んだときのような楽しさも感じた。だが、対象となる時代や、人間に対する理解は、この本のほうが格段に深い。

 こう確信してもかまわないと思うのだ、人間にわりあてられている正の幸福、のびやかな喜び、甘い憩いの総量は、時代によってそう差があるわけではない、と。それに、後期中世の幸福の輝きは、いまや、まったく消え失せてしまっているというわけのものでもない。……
 だからこうなのだ、十五世紀は、人生と世界とを声だかにほめたたえるということに慣れっこではなかった。いや、むしろこういおう、それは、よいお行儀とはみなされていなかったのである、と。(62)

 このような深い洞察力は、ほかの学者には見られない、著者独特のものだ。

中世の秋〈1〉 (中公クラシックス)

中世の秋〈1〉 (中公クラシックス)