2016-01-01から1年間の記事一覧
一九七〇年代後半以降のバルトは、それまでとはすこし毛色の違ってくる。もともと硬派な印象が強いわけではないのだが、われわれが「ロラン・バルト」という固有名詞から受ける、耽美的で、少し退廃的な趣もある感覚は、この頃の思想にもっとも現われている…
この本では、バルトの作品の紹介は最小限にとどめられているが、彼の理論は、部分部分で要領よくまとめられている。用語の整理や備忘も兼ね、一部を引用しておきたい。 エクリチュール 彼の説明によれば、エクリチュールは作家にとって選択の場であり、規範…
人間の性格を、その作品と結びつけることは、バルトが戒めていたことである。しかし、著者が紹介する次のエピソードを読めば、バルトの理論もまた、ひとりの人格としてのバルトから作りだされたことが、見てとれるであろう。 学生時代のエピソード バルトは…
プルースト まずは、学生時代やデビューする前のバルトを扱った内容から。 彼にとって重要な作家となるプルーストとの出会い。 彼の生涯において決定的な役割を演ずることになる作家、マルセル・プルーストを発見するのも、十六歳のときの、この同じ夏休みで…
昨年の夏に読んだ、鈴木和成氏によるバルト解説書で勧められていた本書。鈴木氏は、広大なバルトの世界で道に迷わないための道しるべとして、本書を勧めていた。 そのため、バルトの作品解説は最小限にとどめられており、むしろバルトの生涯、彼がどのような…
今月は以下の作品を鑑賞した。 5/5 『ロラン・バルト伝』 ルイ・ジャン・カルヴ 5/7 『サティさんはかわりもの』 M.T.アンダーソン 5/20 『ホテル・ローヤル』 桜木紫乃
エリック・サティとの出会いは、今でもはっきりと覚えている。20年前の3月、小野田英一氏が司会をしていたTOKYO FM「JET STREAM」で『ジュ・トゥ・ヴゥ』が流れたときだった。ラジオを聴いていると、時々「これだ」と感じる音楽がある。当時…
音の透明さについて ストラヴィンスキーの音楽の特徴のひとつは、音の<透明さ>である。この特徴は、正真正銘の大家につねに見出されるものである。彼らは自分たちの音響にけっして<かす>を残さない――このかすは印象派の作曲家たちの<音楽素材>のうちに…
今月は以下の作品を鑑賞した。 3/3 『卵のように軽やかに: サティによるサティ』 エリック・サティ 3/11 『モーツァルト』 吉田秀和
本の後半は、著者の人類学者としてジレンマがつづられる。国家が経済危機にあり、数多くの貧民がいる中、多くの予算をかけて保護される先住民の問題。先住民の現代社会への同化と、それにより否応なしに発生する彼らの貧困化。開発の問題に対し、人類学者は…
雑誌「ブルータス」の特集号のため、1984年に著者はブラジルを訪れる。そのとき接したブラジル社会とナンビクワラ族の印象、そして、12年後に記述したブラジルへの思いがつづられる。 川田氏が出逢ったのは、レヴィ=ストロースの時代と違い、国家の保護下に…
マーラーの生前最後の完成作品となる第九番。最高傑作とも言われ、オーケストラの何らかの節目や、記念的な行事の際の演奏曲目となることも多いという。 第一楽章は、アダージョから始まる。過去の自作や多作がコラージュのように織り込まれていると解説され…
今月は以下の作品を鑑賞した。 2/2 『「悲しき熱帯」の記憶−レヴィ=ストロースから50年』 川田順三 2/6 『トゥーランドット 蝶々夫人 ラ・ボエーム (マンガ名作オペラ)』 里中満智子 2/12 『トスカ マノンレスコー/ローエングリン (マンガ名作オペラ)』 里中…
マーラーは、その作曲家人生の中で、何度かの「変身」を行っている。『大地の歌』は、最後の変身を行った後の音楽。いわば、最終形態となったマーラーが作り上げた音楽といえるだろう。 異国の文化が怒涛のように流れこんでいた二〇世紀初頭の欧州。以前より…
マーラーの七番目の交響曲。この作品の第一印象は「よく分からない」といったものでした。副題に「夜の音楽」とあるとおり、夜の情景を描いていることは分かる。しかし、各楽章のつながりは感じられない。曲のストーリーが見えてこない。そして、あの異様な…
小学校一年生のころの記憶に、蜃気楼についての本を読み、それがかなりおもしろかった、というものがある。ひょんなことから、それを思い出し、どんな本だったか調べてみた。 本のタイトルも覚えておらず、ダメもとで蜃気楼にかんする本をインターネットで検…
今月は以下の作品を鑑賞した。 1/9 『恐るべき子供たち』 ジャン=ピエール・メルヴィル 1/16 『ブローニュの森の貴婦人たち』 ロベール・ブレッソン
・「民俗芸術」と呼ばれるものは、あるものの形態はきわめて遠い過去にまでさかのぼるが、全てがそうだというわけではない。フランスの民衆的ロンドや童謡は、十八世紀のパリの社交界で流行した歌が期限となっていたりする。「民衆芸術」の背後には、きわめ…
・未開民族も近隣住民の芸術の事は知っているが、それにたいしては拒否する態度をとる。安易に外的要素を取り入れるなら、芸術の意味論的機能・社会内での役割が崩れ去ってしまうという、尤もな理由からそうしている。この考え方によれば、現代の芸術家(ピ…