イタリア(塩野七海)

「何回もいうようだが、ローマは、いわゆるインテリには向いていない。自らの本質を充分にふまえて、そのうえで自分はいったい何が欲しいのかということを知っている人の情熱には応じてくれるが、時代の先端を行くことや、前衛前衛とばかりに気を使っている人には、そっぽを向いて知らん顔をしているほど、何も与えてくれない。
しかし、真の前衛とは何であろうか。(中略)真の前衛とは、古人とひざをつきあわせて対話することを馬鹿にせず、それを恐れない田舎物的心情の持ち主によって、創造されるものではないであろうか。(中略)彼らは、素朴な心で過去にとび込み、その中で欲しいものだけをつかみ取り、外に出てくるのだ。外に出てきた時、真の創作が開始される。真の前衛が、創られはじめる。」(「イタリアからの手紙」(42)より)
(モンレアーレのカテドラルについて)「これが、地上の天国というものだ、と私は思った。かつてのキリスト教徒は、この中にひざまずき、色彩の饗宴にひたり、両手を広げた正面のキリストの前で、これこそ地上の天国にいる心地がしたことであろう。私が、自分の想像力を越えたといったのは、私がキリスト教徒でなく、地上の天国はおろか天上の天国さえ夢見たこともなかったからである。」(同上(199)より)