イタリア(澁澤龍彦)

「私は、道一つ隔てたホテルの右隣りの公園ヴィラ・ジュリアにきて、初めて私の夢想のパレルモを見出したと思った。あとで気がついたのだが、ゲーテパレルモ滞在中、毎日のように通ってきては、「物静かな楽しい時間」を過ごし、彼の心に以前から漠然と思い浮かんでいた、あの「原型植物」という観念をつかんだのも、このヴィラ・ジュリアにおいてだったのである。」(『旅のモザイク』(31)より)
「これらの修道院の中庭にも、珍奇な、見たこともないような植物の繁茂はおびただしかった。ともすると私は、暗い堂内のビザンティン風の金色燦然たるモザイク装飾や、中庭回廊の柱頭装飾のロマネスク風の浮彫りなどよりも、明るい外光の下の鬱然たる植物の氾濫に目を奪われがちであった。かくて私のパレルモの印象は、一口に言えばフローラ、植物なのである。」(同上(35)より)