読書

『イタリア・ルネサンスの文化1』 ブルクハルト 5/5

この本の時代背景 名著と呼ばれる『イタリア・ルネサンスの文化』であるが、議論を鵜呑みにしないためにも、この本の時代背景を意識しておく必要がある。これについては、訳者が適切に解説しているので、備忘までに引用しておく。 かれが、ヨーロッパにおけ…

『イタリア・ルネサンスの文化1』 ブルクハルト 4/5

この古代崇拝に関して、ブルクハルトは肯定・否定両面の考えを持っているようだ。否定面としては、次のような意見が述べられる。 (古典的古代を一面的に重んずる風潮にたいするピーコの批判を引用して)「われわれは、字句の末にこだわる者たちの学校にでは…

『イタリア・ルネサンスの文化1』 ブルクハルト 3/5

古代崇拝の時代 ルネサンスにおける古代の復活。これについても、ブルクハルトはその原因を明確に述べることはしない。著者は、当時の古代崇拝の様相を、どちらかといえば戯画化して語る。 個々の都市の歴史書は、昔から、真偽とりどりのローマとの関係や、…

『イタリア・ルネサンスの文化1』 ブルクハルト 2/5

ルネサンス期の「個人」 そのような社会の中で、個人もまた変化していく。ブルクハルトは直接書いてはいないが、当時のようなきつい社会を生き抜くために、社会を観察する眼が養われたこと、そのことが、個人の精神的な自立を促したことが語られている。 中…

『イタリア・ルネサンスの文化1』 ブルクハルト 1/5

人文科学の創始者と言われる著者が、イタリア・ルネサンス文化を論じた二巻構成の本。第一巻では、国家や個人を取り巻く状況から、古代崇拝が生まれるまでの状況が語られる。 「芸術作品としての国家」 当時の国家を取り巻く状況は、フランス、スペインの脅…

四月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 4/1 『イタリア・ルネサンスの文化1』 ブルクハルト 4/7 『どろろ』 手塚治虫 4/10 『トリスタンとイゾルデ』 バイロイト音楽祭より ダニエル・バレンボイム指揮 4/12 『故郷』 山田洋次 4/18 『陽は昇る』 マルセル・カルネ …

『ウンベルト・サバ詩集』 2/2

「拡張現実」という言葉がある。どちらかといえば、情報テクノロジーや、その発想を基にした批評などでよく聞かれる言葉だ。 サバの詩集を読み、私が思い浮かべたのはこの「拡張現実」という概念だった。 彼が歌ったトリエステの景色は、偽物ではない。詩人…

『ウンベルト・サバ詩集』 1/2

「もし今日、トリエステに着いて……なにげなく選んだ道を、サバとともに歩くことができたなら……」 数年前の夏のある日、私は所用でトリエステに行く機会をもった。……途中、道ですれちがう人たちに、銀行や税関の重々しい建物に、手摺のついた細くて急な石畳の…

『恋愛のディスクール・断章』 ロラン・バルト 2/2

ところで、恋愛のキーワードがアルファベット順に、無機質に並べられたこの本の構成は、例えば十二音列で作られた、無調音楽を思わせるところが無いだろうか? 音楽を愛したバルトにとって、支配する調性のない音楽から得たインスピレーションは確実にあった…

『恋愛のディスクール・断章』 ロラン・バルト 1/2

「嫉妬」「憔悴」あるいは「追憶」。このような、男女間の恋愛について回る感情を、「ウェルテル」はじめ、 古今の文学作品を渉猟しながら分析したこの本。 一見、作者ロラン・バルトの体験が色濃く反映されているように思えるし、出版された当時は、そのよ…

三月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 3/1 『腹話術 (ヨウスケの奇妙な世界 PART 1) 』 高橋葉介 3/3 『海の牙』 ルネ・クレマン 3/6 『映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 〜はばたけ 天使たち〜』 寺本幸代 3/10 ビルディング・ロマンス−現代譚(ばなし)を紡ぐ−…

二月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 2/1 『ルパン三世 カリオストロの城』 宮崎駿 2/3 『天空の城ラピュタ』 宮崎駿 2/12 所蔵 名品展 尾形光琳 国宝「紅白梅図屏風」/MOA美術館 2/18 『萩原朔太郎詩集』

萩原朔太郎詩集

詩は頭で理解するものではない。一人の詩人のすべての作品が、読者にとって同じだけの魅力をもつとは限らない。 それなりに詩に触れたことのある人間にとっては分かりきったことだろうが、それでも詩集を紐解く際には、想像以上の感銘を期待してしまうのが人…

一月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 1/2 『円地文子訳 源氏物語 三』 1/17 『オルフェ』 ジャン・コクトー 1/20 『日出処の天子』 山岸凉子 1/27 『母性のディストピア』 宇野常寛 1/30 『北ホテル』 マルセル・カルネ

十二月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 12/1 『大いなる幻影』 ジャン・ルノワール 12/2 『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』 アービン・カーシュナー 12/6 『ゲームの規則』 ジャン・ルノワール 12/15 『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還』 リチャード・マーカンド 1…

『恋愛のディスクール・断章』はどう読むべきか? −『ロラン・バルト (シリーズ 現代思想ガイドブック)』2/2

『恋愛のディスクール』は、バルトによる快楽主義の実践と言える。彼はこの本で、恋愛を様々な要素に分解し、科学する態度をとる。しかし、ともすれば安直な内容になりがちな方法で著されたこの本から、私たちは皮相なものを受けとることはない。 恋する主体…

『恋愛のディスクール・断章』はどう読むべきか? −『ロラン・バルト (シリーズ 現代思想ガイドブック)』1/2

昨年から、ことある度に読んでいる、ロラン・バルトの『恋愛のディスクール・断章』。文体もきれいだし、内容も恋愛にまつわる様々がちりばめられていて、自分にも思いあたることも多く面白いのだが、なかなかバルトの考え方がつかめない。 そのために、副読…

絶望的だけどあたたかい、不思議なお話 『かもめ・ワーニャ伯父さん』2/2

作品を支配する「暗さ」や「かなしみ」がどこからきているかといえば、それはこの生活から抜け出したくても抜け出さない、という虚無感なのだろうと思う。 食べていけるだけの生活はできている。家族も仲間もいる。でも毎日同じことの繰り返し。会話といえば…

かなしい喜劇 『かもめ・ワーニャ伯父さん』1/2

チェーホフが晩年に発表した四大喜劇のうち、『かもめ』『ワーニャ伯父さん』を読んだ。 一般に、チェーホフの四大喜劇は、先に発表されたものほど暗く、後半になるほど、希望が大きくなるといわれている。今回呼んだ二作は、その一番目、二番目の作品である…

十月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 10/1 『かもめ・ワーニャ伯父さん』 チェーホフ 10/4 『リア王』 アンドリュー・マカラ 10/6 『スケバン刑事』 田中秀夫 10/18 『メイド・イン・アビス』 小島正幸 10/20 『アバター』 ジェームズ・キャメロン 10/21 『検証 東…

九月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 9/2 『マクベス』 オーソン・ウェルズ 9/3 『音楽をめざす絵画』 9/15 『里見八犬伝』 深作欣二 9/16 『シザーハンズ』 ティム・バートン 9/29 『ロラン・バルト (シリーズ 現代思想ガイドブック)』 グレアム・アレン

『芥川竜之介随筆集』

芥川竜之介といえば、その容姿や作品から、知性にあふれるシャープなイメージがある。そのため、彼の随筆にも、鋭い文明批評や人間に対する洞察を期待していた。 しかしその内容は、学生時代の思い出や友人たちの印象など、どこかほんわかしたものが多い。す…

八月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 8/3 『蘇える金狼』 村川透 8/4 『君の名は』 新海誠 8/5 『アーサー王伝説―7つの絵物語』 ロザリンド カーヴェン 8/18 『芥川竜之介随筆集』 『サマーウォーズ』 細田守 8/23 『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ…

星三百六十五夜/野尻抱影 2/2

こちらは、星に照らされた夜の風景の描写。著者の文章には、ときおり、夜の街や自然を扱ったものが見られる。ここでは、星は魅力ある背景となる。 こういう風が止むと、まだ午後であるのに、空は冴えた水浅黄に染まって、魂を吸いこみそうに深い。そして西山…

星三百六十五夜/野尻抱影 1/2

「星の翁」とも呼ばれる野尻抱影氏。その名の通り、星をテーマにした様々なエッセーを残している。この本ではその名の通り、1年365日を通し、1日1作ずつ文章が著されている。私も氏にならい、昨年の夏から1年かけて、ゆったりとこの本を楽しんできた。 星…

『ピアノを弾く哲学者 サルトル、ニーチェ、バルト』 フランソワ・ヌーデルマン 3/3

バルト―演奏のエロティックな現象学 ロラン・バルトもピアノについて様々に著述した哲学者であったが、その白眉は「演奏の現象学」ともいえるような、演奏そのものについての記録である。 バルトが、演奏する=”打つこと”によって追求したのは悦楽だった。ピ…

『ピアノを弾く哲学者 サルトル、ニーチェ、バルト』 フランソワ・ヌーデルマン 2/3

ニーチェ―転向させるものとしての音楽 ニーチェといえば、ヴァーグナーを称賛した哲学者として知られている。しかし、後にその音楽を否定したことは、少なくとも哲学の門外漢からは、あまり知られていないのではないだろうか。 抑鬱的、病的な傾向があるドイ…

『ピアノを弾く哲学者 サルトル、ニーチェ、バルト』 フランソワ・ヌーデルマン 1/3

サルトル、ニーチェ、バルトという、生涯ピアノを愛好した三人の哲学者。著者は、ピアノは単なる趣味にとどまるものではなく、三人の哲学にも重要な役割を果していると考え、彼らとピアノのかかわりを綴っていく。 楽器演奏が思想に影響を及ぼすなんて、何と…

七月に鑑賞した作品

今月は以下の作品を鑑賞した。 7/5 『ジュリアス・シーザー』 スチュアート・バージ 7/7 『犬神家の一族』 市川崑 7/12 『シャイニング』 スタンリー・キューブリック 7/27 『ヘンリィ五世』 ローレンス・オリヴィエ 7/28 『モオツァルト・無常という事』 小…

『ひらがな日本美術史1』 橋本治 3/3

三嶋大社の梅蒔絵手箱 鎌倉時代は、美術史的には「写実の時代」ということになるのだろう。「王朝の美学」の後に写実の時代がやって来るということになると、この鎌倉時代というものがかなり「野暮な時代」のように思えてしまうのだけれども、しかし、「梅の…