『イタリア・ルネサンスの文化1』 ブルクハルト 5/5

この本の時代背景

 名著と呼ばれる『イタリア・ルネサンスの文化』であるが、議論を鵜呑みにしないためにも、この本の時代背景を意識しておく必要がある。これについては、訳者が適切に解説しているので、備忘までに引用しておく。

 かれが、ヨーロッパにおける南北の対比をかたるとき、実質的にはイタリアとドイツとを対置していた。その手法は、全ヨーロッパを視野におさめるとすれば、いささかの誤解をまねきかねない。南北対比が、あまりにも直截にすぎて、現在の読者にとっては、抵抗感を禁じえないのも事実である。
 周知のとおり、イタリアは一八六一年、サルデーニャ王国の主導のもとに統一される。ドイツはプロイセンのもとで、一八七一年に統一される。『イタリア・ルネサンスの文化』は、スイス人によって執筆されたとはいえ、ドイツとイタリアとが、それぞれの事情から統合されてゆく時代の記念碑であるといっても、過言ではない。近代歴史学の最高の古典のひとつとして認知されうるにしても、それが一八六〇年の刻印をふかく蔵していることは、忘れられてはなるまい。(15)

イタリア・ルネサンスの文化〈1〉 (中公クラシックス)

イタリア・ルネサンスの文化〈1〉 (中公クラシックス)