旅する力/沢木耕太郎

深夜特急」の旅や、それにまつわるエピソードが書かれた内容となっています。
氏の他の作品やエッセイですでにふれた話が多かったため、これまでの氏の作品に比べ、読後の印象は薄いものでした。しかし、「深夜特急」の旅から東京に戻った時の次の印象には、共感するものがありました。

羽田空港にモスクワから到着した時間帯は、夜間ではなかったはずである。しかし、なぜか暗い印象が残っている。照明は明るかったが、パスポート・コントロールのエリアも、ターン・テーブルのエリアも、なぜか静かで寂しげに感じられた。(略)
羽田から池上の両親の家に帰る途中の風景はよく覚えている。懐にはわずかな金しかなかったが、さほどの距離ではないのでタクシーで帰ることにした。それが日曜日だったということもあるのかもしれない。しかし、道路にはあまり車の姿はなく、街は閑散として静まり返り、まるで無人の土地に帰ってきたような奇妙な感じを受けた。(172-173)

長旅から東京に戻ると、どこかそっけない印象を受けました。それが氏の言う「暗い印象」なのかもしれません。旅という、カーニヴァル的な日々が終わったことからくる寂しさではない、冷たい感じが確かに東京にはあったと思います。以前はその冷たさが嫌いではありませんでしたが、現在はまた違ったように感じることでしょう。

旅する力―深夜特急ノート

旅する力―深夜特急ノート