プレーンソング/保坂和志

2009/1/29読了
大きな出来事は起こらず、主人公の日常で起こること、その時の主人公の「意識の流れ」を描いていると思います。ただ、それをこの小説が発表された一九九〇の言葉で、その空気の中で描いたことに、この小説の特徴があると思います。
作者は別の本で「名作と呼ばれる作品は、それが作られた時代性を反映している」ということを言っていましたが、この小説にはその「時代感覚」を強く感じました。
また、作者による作品論が、登場人物の言葉を借りて次のように描写されているところも、面白いと思えました。

「でも、ゴンタって、何? 何か事件とか派手な話とか、そういうの撮りたいとかは、思えないわけ?」
と訊いてみると、ゴンタは、
「あの――。ぼくは物語っていうのが覚えられないんですよ。粗筋とか――」
と話しはじめた。
「映画見たり、小説読んだりしてても、違うことばっかり考えてるんです。
それでも、高校の頃からずっと小説書きたいって思ってて、今は映画撮りたいって、思ってて。
でも、筋って、興味無いし。日本の映画とかつまんない芝居みたいに、実際に殺人とかあるでしょ、それでそういうのから取材して何か作ってって。そういう風にしようなんて、全然思わないし。バカだとか思うだけだから。
何か、事件があって、そこから考えるのって、変でしょう? だって、殺人なんて普通、起こらないし。そんなこと言うくらいだったら、交通事故にでも会う方が自然だし。
日本のバカな映画監督なんか、人間はそういう事件と背中合わせに生きてる、みたいなこと言うでしょ。でも、そういう人たちの映画みてても、どこが背中合わせなんだろうって。それに、もともと普通の人じゃないしね。出てくるのが。
そんなんじゃなくて。本当に自分がいるところをそのまま撮ってね。
そうして、全然ね、映画とか小説とかでわかりやすくっていうか、だからドラマチックにしちゃってるような話と、全然違う話の中で生きてるっていうか、生きてるっていうのも大げさだから、『いる』っていうのがわかってくれればいいって」(207-208)

プレーンソング (中公文庫)

プレーンソング (中公文庫)