『ロラン・バルト伝』 ルイ=ジャン・カルヴェ 1/5

 昨年の夏に読んだ、鈴木和成氏によるバルト解説書で勧められていた本書。鈴木氏は、広大なバルトの世界で道に迷わないための道しるべとして、本書を勧めていた。
 そのため、バルトの作品解説は最小限にとどめられており、むしろバルトの生涯、彼がどのような人だったのかを、ゆかりの人々の証言をもとにまとめている。
 ちなみに、「伝記」というジャンルは、バルトのテクスト論とは相容れないものである。それを踏まえ、著者は彼の伝記を書く意義を次のように述べている。

 「伝記は、非生産的な人生についてしか成立しない」、と彼は書いている。この点では、彼はテクストに対する構造論的なアプローチに忠実なのであって、たとえばラシーヌに関して、「作品から作者へ、作者から作品へ推論する」ことを拒否するのもそのためである。そして彼が提出する分析は、いささかもラシーヌとはかかわりをもたず、ただラシーヌの主人公たちを扱うだけである、と明言する。……言いかえれば、ラシーヌの悲劇について語るためには、洗濯屋の勘定書やかりそめの恋の痕跡を探し求める必要など少しもないということである。
 (カルヴェ氏の反論)私から見れば、人生は一つの全体であって、人と作品、肉体とそれが生み出すものとのあいだには、解読すべききずな、緊密で、ときには不思議な関係、親子の関係が存在する、ということは言っておかなければならない。(10)

 以下、四回に分けて、この本で描かれているバルトの人となり、その思想をまとめていこう。