呪術士としてのアルゲリッチ。彼女の奏でるシューマンを表現するとすれば、この比喩が最も腑におちます。
私が聴いたのは、次の楽曲。
『幻想曲 ハ長調』
『幻想小曲集』
『ピアノ協奏曲 イ短調』(新日本フィルとの共演)
たとえば幻想小曲集。一曲目の『夕べに』からアルゲリッチの呪術の世界に導かれます。
『飛翔』で表現される強い音と、『なぜに』で奏でられるクリアな旋律との対比。『気まぐれ』の舞踏的な表現は魔術のように聴こえます。
吉田秀和氏は、アルゲリッチのショパンについて次の文章を残していますが、音楽を呪文の詠唱のように聴けば、この意味が分かる気がします。
そこには抗し難い大胆さ、スケールの大きさと音楽の文明の手の加えられる以前の一番原初的な発動に近い、ある呪縛的な力が呼吸している。むらがあったり、リズムに誇張がある点で、リパッティの精神的気品はないにしろ、力強さではそれを凌駕する。(『世界のピアニスト』より)
ところで、『幻想小曲集』は1976年ですが、新日本フィルと共演したピアノ協奏曲は2010年の録音となっています。そこにはかつての呪術士が「ほらごらんなさい、魔法を見せてあげるわよ」と言っているような、おだやかな音楽がありました。
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