エッシェンバッハのショパン(前奏曲集)

以前NHK-BSの番組において、池辺晋一郎氏がシューマンショパンという、ロマン派の代表的な作曲家のピアノ曲を比較し、次のようにいっていた。
シューマンはピアノの奏法を探求することによって独自性を獲得し、一方ショパンは書法の完璧さを目指した。そして、ショパンの作品例として演奏されていたのが、この前奏曲集だった。
前奏曲集は、バッハの平均律クラヴィーアと同じように、一オクターブの十二音の長調短調からなる、計二十四曲から構成されている。エッシェンバッハのこの演奏から聞きとれたものは、この調整による弾きわけの面白さだった。
作曲家の吉松隆氏が、その著書の中で調整ごとの特徴を述べている。たとえばト長調は春のようなサウンドヘ長調は牧歌的な雰囲気、ホ短調は憂いのあるセンチメンタルな響きであるなど。これらの調性の特徴があらわれる一つの原因は、弦楽器や管楽器の調性の得意・不得意にあり、楽器の響きを活かした名曲がつくられることで、調性の性格が決定づけられてきた。
逆にいえば、どのような調整でも万能に弾けるピアノにとっては、調整による性格付けは本来関係がない。しかし、ショパンは歴史的に定められてきた調性の性格をふまえ、あえて前奏曲集の各作品に、性格を施しているように思える。
ワルツやマズルカポロネーズなどのジャンル音楽ではない前奏曲集でショパンが目指した書法の完璧さとは、この意味においてのことではないか。私たちは、平均律クラヴィーアを聴くようにショパン前奏曲集を聴くことができ、その逆もまた正なのだ。

ショパン:24の前奏曲集

ショパン:24の前奏曲集