『幼年期の終わり』 アーサー・C・クラーク

2009/10/15読了

「それだけではありません。しかし、あなたがたにはいま以上に真実に近づくことはできないでしょう。時間と空間を超えるかのような不思議な力を持った人々は、太古の昔から大勢存在していました。しかし、人類はその力を理解できなかった。解明の試みは行われましたが、ほぼ例外なく見当違いなものに終わりました。これは確かですよ。私は全部読んだんですから!
しかし一つだけ――示唆に富んでいて参考になる比較論がありました。あなたがたの文献に幾度となく現れています。人間の心は海に囲まれた島だと考えてみてください。それぞれは隔絶されているように見えますが、実際には、海底の岩盤でつながっています。海の水が消えたら、島は一つも残らない。それまであったものはすべて一つの大陸の一部になるんです。ただし、個としての存在は失われます。」(340-341)

「百五十年前、私たちの船が地球の空に現れたとき――それが私たち二つの種族の初めての出会いだった。もちろん、それ以前から距離を置いてきみたちを観察してはいたがね、初めて会ったはずなのに、予想どおり、きみたちは恐怖を抱いた。私たちをすでに知っていたからだ。とはいえ、厳密に言えば、それは記憶とは違う。時間というものが地球の科学が想像したことがないほど複雑なものであるという証拠を、きみたちはとうの昔に握っていたのだよ。というのは、私たちに関する記憶とは、過去のものではなく、未来のものだったからだ。それは人類が世界の終わりを悟ってからの最後の年月の記憶だった。私たちはできるかぎりの手を尽くした。だが、安らかな終わりにはならなかった。しかし、私たちはそこに居合わせたがために、人類の死と結びつけられてしまった。そう、まだ一万年も先の出来事だったというのにね!それは時間の閉回路を未来から過去へぐるりと一周して響いた。ねじれたこだまのようなものだった。だから、記憶と呼ぶべきものではないんだよ。記憶ではなく、予知と言うほうが当たっている」(401)

幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)

幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)