『入門経済思想史 世俗の思想家たち』 ロバート・L・ハイルブローナー 2/2

ヴィクトリア朝の学者たち

 ヴィクトリア期の経済学の特徴―「均衡」などの静的な概念が台頭したこと。(287)
 ボブソンは、彼の帝国主義論で、資本主義がそのジレンマから逃れるための不断の趨勢として、不可避的に戦争が導かれることを主張した。それは、例えばレーニンらによってマルクス主義の装いをつけられ、後期資本主義の社会的局面と解釈されるにいたる。(318,323)
 マーシャルは、この時代に「君主」や「プロレタリア」ではない集合的な「個人」を見出した。また、政治思想や階級闘争抜きの「経済学」という新たな視点を得た。(341)

ヴェブレン

 ヴェブレンの功績―近代の重要なファクターとして、テクノロジーと科学を発見したこと。「合理的な」新古典派的社会描写の弱点を暴き出したこと。(399)

ケインズ

 貯蓄が躓きの石となったケインズの時代。投資主体と貯蓄主体が異なる経済では、好不況は貯蓄ではなく、企業活動により決定する。(431)
 ケインズの理論―単なる政府支出の話ではなく、簡単にまとめるのは難しい。ハイエクへの手紙に、彼の苦悩が読み取れる。「ところが厄介なのは、果実を享受するために計画を求めるのではなく、道徳的にあなたと正反対の考えをもち、神にではなく悪魔につかえようとすることから、計画化を望んでいると言える大きな集団も存在していることです。」(455)

シュンペーター

 資本主義の終焉のヴィジョン。資本主義を発展させた当の合理主義が、社会主義―柔和な計画経済―を生み出す。(494)
 経済的ではなく文化的圧力に屈した、官僚主義化した実業家が、資本主義の前途を台無しにし、合理的な社会主義を生み出すという予想。経済的視点のみでは将来の予測はできない、というのがシュンペーターの結論。(498)

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 この本を再読し、二つの考え方に惹かれた。
 一つはユートピアンたちの考え方である。彼らの思想や行動は、今風に言えば「シェア」ということにつながる。もう一つは、シュンペーターの「柔和な計画経済」という考え方。
 どちらの考え方にしても、その実現により見えてくるのは、ダイナミックではないが穏やかな社会ということになるし、それを求める人のほうがいまは多数派なのではないかと思う。
 昔の知り合いとの会話で、たまたまアダム・スミスの名前が出て久しぶりに経済学を勉強してみたが、以前よりも精神的に余裕が出たせいか、ゆったりと考えながた学ぶことができ、読書の時間を素直に楽しめた。単純ではあるけど、人と話すことで面白いきっかけが生まれたりするものなんだなと思う。

入門経済思想史 世俗の思想家たち (ちくま学芸文庫)

入門経済思想史 世俗の思想家たち (ちくま学芸文庫)