『社会契約論』 ジャン・ジャック・ルソー

2010/10/30読了
中山元氏翻訳作品の二作目。

社会契約の定義

「どうすれば共同の力のすべてをもって、それぞれの成員の人格と財産を守り、保護できる結合の形式をみいだすことができるだろうか。この結合において、各人はすべての人々と結びつきながら、しかも自分にしか服従せず、それ以前と同じように自由でありつづけることができなければならない」。これが根本的な問題であり、これを解決するのが社会契約である。(39)

主権者と主権国家

この結合の行為は、それぞれの契約者に特殊な人格の代わりに、社会的で集団的な一つの団体をただちに作りだす。この団体の成員の数は、集会において投票する権利のある人の数と一致する。この団体は、結合の行為によって、その統一と、共同の自我と、その生命と、その意思をうけとるのである。
このようにして設立されたこの公的な人格は、かつては都市国家(シテ)という名前で呼ばれていたものであるが、現在では共和国(レピュブリック)とか、政治体という名前で呼ばれている。これは受動的な意味では成員から国家(エタ)と呼ばれ、能動的な意味では成員から主権者(スヴラン)と呼ばれる。さらに同じような公的な人格と比較する場合には、この人格は主権国家(ピュイサンス)と呼ばれるのである。(42)

一般意思と全体意思

一般意思はつねに正しく、つねに公益を目指すことになる。(中略)
一般意思は、全体意思とは異なるものであることが多い。一般意思は共同の利益だけを目的とするが、全体意思は私的な利益を目指すものにすぎず、たんに全員の個別意思が一致したにすぎない。あるいはこれらの個別意思から、一般意思との違いである過不足分を相殺すると、差の総和が残るが、これが一般意思である。
(中略)この一般意思によって導かれるこの力こそが、すでに述べたように主権と呼ばれる。(64-65,68)

立法者とは

立法者はあらゆる点において、国家における<異例な人>である。その天分においても、その任務においても、異例な人でなければならないのである。立法者とは、行政機関でもないし、主権者でもない。立法者の任務は、共和国を創設するということであり、これは作られた制度には含まれていないものである。その任務は卓越した特別な仕事であり、人間の世界とはいかなる共通点もない。人々を支配するものは、法を支配してはならないとされているのであり、同じように法を支配するものは、人々を支配してはならないのだ。人々を支配するとき、立法者の方は彼の情念の<しもべ>となって、その不正を永続させるにすぎないことが多いだろう。(89)

立法者と環境

すべての人民に共通の原則というものはあるが、それぞれの人民に固有の違いのために、こうした原則をある個別的なやりかたで調整し、その人民にふさわしい立法を定めるべきなのである。(中略)『法の精神』の著者は、多くの実例を示しながら、立法者がどのような技をもって、それぞれの人民の異なった目標にあわせて制度を調整していくべきかを説明しているのである。(113)

他に、「市民の人口が増え、増大してゆく政府が善き政府である」「首都を定めず持ち回りとし、国家のどの都市にも同一の権利を所有させることで、いたるところに豊かさと活力が生まれる」「キリスト教の霊の王国が建てられたため、宗教の体系と政治の体系が分離され、国家の一体性は終りを告げ、国家の内部に分裂が生じた。これはその後ずっと、キリスト教徒を悩ませつづけることになる」などの主張がある。

社会契約論/ジュネーヴ草稿 (光文社古典新訳文庫)

社会契約論/ジュネーヴ草稿 (光文社古典新訳文庫)