『<映画の見方>がわかる本』 町山智浩

2009/10/31読了

ロッキーも、ブロディも、ルークも、ジョン・ウェインのように「あらかじめ」ヒーローとして登場するわけではない。どこにでもいそうな、つまりニューシネマ的な「かっこ悪い男」である。「正義」や「名誉」や「愛国心」にも興味はない。しかし、きわめて個人的な理由で戦いに身を投じ、ヒーローへと成長する。この三本はニューシネマが滅ぼした「ヒーロー」という考えを、ニューシネマ的なリアリズムで再生させた。
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長距離ランナーの孤独』のコリンが危惧したように、いったん勝利のゴールに飛び込んでしまえば、あとは体制の保守に努めるしかない。
スタローンのおかげで八〇年代ハリウッドはアーノルド・シュワルツェネッガーブルース・ウィリスなど筋肉ヒーローに席捲され、七〇年代的なアンチ・ヒーローや負け犬たちはスクリーンから一掃された。無敵のボディを持つ英雄たちが、正義への疑いもなくテロリストたちを退治する勧善懲悪の冒険活劇。それは桃太郎の鬼退治とまるで変わらない。結局、映画の観客は神話時代に幼児退行してしまったのだ。(220-221)