プルーストによる人生改善法/アラン・ド・ボトン

2007/3/7読了
「語り手と休暇にとって幸運なことに、画家エルスチールもバルベックにやって来ていて、彼は古いイメージに頼るよりむしろ、自分自身のイメージを創造する心構えができていた。エルスチールは、その土地の場面を描いている。(中略)語り手は競馬場の絵の前に立って恥ずかしそうに、競馬場へ行きたいと思ったことはないんです、と認める。まあ、そうだろう。彼の関心は、もっぱら荒れ狂う海や啼き叫ぶ海鳥にあるのだから。だが、それでは性急すぎたのではないかとエルスチールは言い、もう一度見る手助けをしてくれる。」(187)
ドレスデンへ旅したいと思ったとたんに実際に旅立てたり、カタログで見たばかりのドレスをすぐ買えたりする点で、金持ちが恵まれているにせよ、彼らは、富が欲求を満たしてしまう速さゆえ呪われているのだ。ドレスデンを思うや否や、ドレスデン行きの列車に乗れて、ドレスを見るなりそれを衣装ダンスに収められる。それゆえ、自分に較べれば恵まれない人々のように、欲求がわいてから充足するまでの期間を耐える機会が金持ちにはない。一見不快なその空白こそ、実は、予想外の恩恵をもたらしてくれるものなのだ。すなわち、そのあいだにドレスデンで見られる絵画とか、帽子とか、部屋着とか、今晩は暇ではない誰かといったものを知って、それらに深く恋することが許されるのだ。」(209)
「私たちの訪問先はイリエ=コンブレーではいけないのだ。すなわち、プルーストに対する本当のオマージュは、彼の目で私たちの世界を見ることで、彼の世界を私たちの目で見ることではないのだ。」(247)