ルービンシュタインのショパン(マズルカ集)

ほかの作曲家の作品同様、ショパンの音楽を聴くときにも、私は吉田秀和氏の評論を手元に置いている。
だが、マズルカ集では、本当に吉田氏の文章にたよりきってしまった。
「私は、《マズルカ》が好きなのである。」とずばり書いているだけあって、非常にクリアで腑に落ちる評論。
では、氏はマズルカをどのように論じているか。

ここには、私の考えるショパンの最高のものがあり、それに加えるに、いつもの彼に感じられる完璧さへの消耗性の努力とは違う、もっと自然に流れるものへの信頼によりながら、創造が営まれているという安らかさがある。

同じ論考では、とくに作品59がくわしく評せられている。
たとえば一曲目の調整の変化について「海辺の道をたどりながら小さなカーヴをくり返しているうち、まるで違う海に出てしまったので驚いてあたりをみまわすと、何と前と同じ海岸だったといった驚きにたとえられよう。」
二曲目。「ショパン変イ長調には独特の香りがある。これもその一つで、優美であるのと同じくらい、ノンシャランなタッチを持っている。」
ここまで明確に言い切られてしまっては、音楽はこのようにしか聞けなくなってしまう。氏は本当にマズルカが好きなのだろうと思うし、その文章に身をゆだねて一流の演奏を聴ける私たちも、幸福であると考えるべきなのだろう。

ショパン:マズルカ集(全51曲)

ショパン:マズルカ集(全51曲)