『現象学的社会学』 アルフレッド・シュッツ

5年前に読み、引越しの際に実家に送ってしまった本であるが、帰省したのを期に、アンダーラインを引いた部分を中心に再読した。
ゴッフマンの理論的根拠となったシュッツ社会学の要諦をまとめた本書であるが、内容は私たちが「日常世界」に対し、どのような見方を行っているか、その様相を哲学的に思考したものとなっている。特に、コミュニケーションにおける行為や、他者への期待が生じるメカニズムの分析が、その理論の主たる目的となっている。

自明なものとされる社会的世界

集団によって定義されたかつての状況に由来し、これまでにその有用性を確かめられてきた解釈図式は、それ自体新たな状況の一構成要素になる。世界を疑問の余地ない自明なものと措定することの内には、特別なことのない限り世界は大筋でこれまでと同じように進行し、これまで確実とされてきたことは今後もそうであり、われわれやわれわれの仲間がかつてうまくできたことは同じような仕方で再び行うことができ、実質的には同じような結果をもたらすだろう、という根強い確信が含まれている。(38)

外集団的視点と内集団的視点

一般的に述べるなら、集団Aにとっての自然な世界観の内には、何らかのステロタイプ化された集団Bの自然な世界観のみではなく、集団Bが集団Aを眺めているであろう仕方のステロタイプも含まれているのである。(46)

今回の再読では、シュッツ理論の中でも「類型化」が大きなテーマとなっていることが感じられた。以下は、特にそれに関して述べている部分の抜粋である。

有意性と類型化の諸体系

(有意性と類型化の体系は)個別的な存在である個人の個別的な行為を、類型的な動機にもとづいて類型的な目的をはたそうとする類型的な社会的役割の類型的な機能にかえる。そうした社会的役割をとるものは、内集団の他の成員から、この役割に規定された類型的な仕方で行為するべく期待される。一方、この役割を果すことで、行為者は彼自身を類型化する。つまり彼は彼が引き受けた社会的役割によって定義された類型的な仕方で行為しようとする。彼は実業家、兵士、裁判官、父親、友人、職場のリーダー、スポーツマン、相棒、好漢、アメリカ人、納税者等が行為するとされるように行為するのである。したがって、どのような役割も行為者における自己類型化を含むといえる。(90)

社会的に認められた類型化と優位性の体系は、個人の私的なその体系が生じる領域である。なぜならば、彼の私的な関心や問題は、集団のそれに結びついたものであるからである。そして、この体系は彼の社会的役割(少年の父親、納税者、教会のメンバー・・・)により、内的一貫性を欠くことがある。(91-92)

人間類型と行為類型

他者の行為の統一としてこのように抽象的に定義されたものの中味は、観察者の視点に応じて変化するものであり、この観察者の視点もまたそれ自体観察者の固有の関心や問題によって変化するものである。つまり、観察者の視点は、観察者が行為についての彼自身の知覚に与える意味と、彼が行為に割当てる類型的な動機との双方を決定するのである。しかも、このような〔観察者の変化する視点によって決定される〕すべての類型的動機や、意識のすべての固定された断面に対して、それぞれ――先に述べたような仕方で主観的に動機づけられる――対応する人間類型が存在するのである。したがって、人間類型そのものも常に解釈者の視点によって決定されることになる。それは、それが答えようとしている疑問そのものの関数なのである。それは客観的意味連関に依存するものであり、この類型はこうした意味連関を単に主観的な用語におきかえ擬人化しているに過ぎないのである。(312-313)

また、シュッツの理論はフッサール現象学がその下敷きとなっている。その意味で、次の箇所は、非常に「現象学的な」思考であると思った。

選択と行為

決定論も非決定論も、「なされてしまった行為」からO点に遡り、この「なされてしまった行為」についてわかっているあらゆる特徴を、なされつつある行為にあてはめようとしているのである。どちらの説の背後にも、ある誤った仮説、つまり空間的思考様式は持続に適用でき、持続は空間によって、また継起は同時性によって説明できる、という仮説が潜んでいる。しかし、選択は実際には次のように行なわれる。すなわち、自我は想像において一連の心的状態を通過し、その各状態を通過するごとに成長し、豊かになり、変化し、ついに「自由な行為が熟したかじつのように離れ落ちる」のである。二つの「可能性」「方向」「傾向」といったものは、遡ればこうした継起的な意識状態なのであり、行為がなされる以前にはまったく存在しないものである。存在するのは、ただ動機も含めたたえまない生成過程にある自我のみである。(126)

現象学的社会学 (文化人類学叢書)

現象学的社会学 (文化人類学叢書)