『現代思想の冒険者たちSelect レヴィ=ストロース』 渡辺公三 1/2

「悲しい熱帯」を読み、もう一度レヴィ=ストロースの思想に触れてみたくなったため、評判の良いこの書を読んでみました。多岐にわたる内容のうち、特に気になった個所は以下のとおり。
サルトルの「地獄とは他人のことだ」という言葉への批判。そのような考えは、「汚れたもの」はすべて外部から、すなわち他者から来ると教える近代文明のありかたに他ならない。(23)
・「種としての個体」という、人間を特別扱いする発想への批判。(35)
レヴィ=ストロースの親族研究は、ヤコブソンの言語学を愚直に人類学に適用したものではない。利用したのは、その発想である。「現象としての音の多様性の基底に、音素の体系さらには「弁別特性」の体系が発見されたように、社会制度そして文化の底にも「組織原理」つまり明確なしかし無意識の秩序が探求されねばならない。」(96)
インセストの禁止。それは生物学的なものではなく「交換せよ」という命令である。(102)
・双分組織で問題なのは、それが伝搬か独立発生かではなく「組織原理」であるということ。世界中で様々な現れ方をしている双分組織は、原理的には単純なものである。(109)
・「氏族」や「家族」は、それらを枠組みとする「同一性への問い」にとりつかれた近代人の幻想にすぎない。(124)
・身分を顔に造型することは、世界各地でみられる普遍的な精神のメカニズムである。(138)
・自己と他者が共有しあう無意識のレベルの存在が、人類学を成立させる条件であるという発言。レヴィ=ストロース精神分析的なニュアンスを帯びた無意識に与えた、最も肯定的な評価。(164)
・神話分析−神話素、構造変換などの概念。また、ある社会の神話が、近隣社会の象徴儀礼の変換になっているという理解。(184)
・トーテミズム幻想の解体−「(社会集団は)人類学においては「婚姻クラス」「氏族クラス」というカテゴリーによって表されてきた。それにさらにカーストを加えれば人類学における親族にかかわる社会集団のカテゴリーはいちおう揃ったといえよう。そうした社会集団の構造は交換の体系という視点から解明されるというのがレヴィ=ストロースの主張であった。」(214)
・「親族関係論においては、社会構造は交換の体系すなわち人間における他者とのコミュニケーションに必然性によって基礎づけられた。『野生の思考』はこうした人間における他者とのコミュニケーションから生じる帰結としての社会構造を、人間が自然種、いいかえれば自然の生命形態の多様性を手段として作り上げる思考の体系から引き出そうと試みる。それはいいかえれば人間の世界のなかで閉じたコミュニケーションの体系を解きほぐして、人間と自然のコミュニケーションの中に解き放ちそこに包摂するという試みなのである。」(224)
・「熱い社会」「冷たい社会」の区別は単純に過ぎる。それらは社会の一側面を表しているのみでしかない。(302)
レヴィ=ストロースにおける目的論とは−たとえば、虫を惹き寄せて受粉させるための蘭科の花の複雑な進化の過程と、そこで形成された装置が例とさせるように、生物種における、時には奇跡的ともいえる多様なコミュニケーションの様態の生成。(308)

レヴィ=ストロース (現代思想の冒険者たちSelect)

レヴィ=ストロース (現代思想の冒険者たちSelect)